実績豊富!東京5区エリアの不動産売買 信義房屋不動産(しんぎふさやふどうさん)

不動産レポート



築古不動産が「稼ぐ資産」に変わる日 建築費高騰で脚光を浴びるリノベーション投資の現実解

どれだけ賢く使い直せるかが収益力を左右する 

新築すれば収益が上がる。そんな単純な時代は終わりつつある。建築費の高騰、人手不足、工期の長期化、用地取得難。都市部の不動産開発を取り巻く環境は厳しさを増している。とりわけ都心部では、好立地の新規用地は限られ、仮に取得できても、建設コストを吸収できるだけの賃料や販売価格を実現できる案件は限られる。そこで存在感を増しているのが、築古マンション、店舗、オフィスビルをリノベーションし、収益力を引き上げる「再生型」の不動産事業だ。単なる老朽化対策ではない。既存建物をどう読み替え、どのような利用者に向けて価値を再設計するか。そこに投資妙味が生まれている。

 

最近の事例として象徴的なのが、東京ガス不動産が竣工した「Fuu Oimachi by LATIERRA」だ。同物件は1991年7月竣工の建物を一棟フルリノベーションしたもので、東京ガス不動産初の開発案件である。大井町駅から徒歩7〜8分という利便性の高い立地を生かし、1階全体を共用施設化とし、約80㎡のリビングラウンジ、ジム、シアタールーム、プライベートスタジオなどを備え、単なる賃貸住宅ではなく「もう一つの自分の部屋」を持つ暮らしを提案している。総戸数は49戸、専有面積は16.66〜37.36㎡で、2026年3月から入居を開始した。

この事例が示すのは、築古物件の競争力回復において、専有部の内装更新だけでは不十分になっているという現実だ。都市生活者は、狭さを我慢する代わりに、建物全体で使える余白や機能を求めている。ワークブース、ランドリー、無人コンビニ、スマートロック、顔認証、アロマバー。こうした共用部やサービスを組み合わせることで、賃料水準や入居率の向上を狙う発想である。

 

収益力を上げるのは「面積」ではなく「使われ方」

リノベーション投資の本質は、古い建物を単にきれいにすることではない。使われていなかった空間、評価されていなかった立地、十分に活用されていなかった共用部を、収益を生む装置に変えることにある。

JR西日本不動産開発とリノベるが手掛けた「JRWD錦糸町タワー」のバリューアップは、その典型例だ。1994年竣工、築31年のオフィスビルで、約80坪の空き区画を共用ラウンジに改修した。併せて外構の公開空地も整備し、ワーカーのウェルビーイング向上と地域貢献を両立させることで、テナント企業から「選ばれるオフィスビル」への転換を図った。

注目すべきは、改修対象が貸室そのものではなく、空き区画と公開空地だった点だ。従来であれば、空室を埋めるために賃料を下げる、あるいは内装を整えてテナントを探すという対応が中心だった。だが同プロジェクトでは、入居テナントへのヒアリングを行い、「休憩スペース」「一人で集中できる場所」「大人数が集まれる場所」といったニーズを把握したうえで、共用ラウンジ「itoma lounge」を整備している。

これは、オフィスビルの収益性を考えるうえで重要な変化と言えよう。オフィス回帰が進む一方で、テナント企業は単に執務面積を借りるだけでは満足しなくなっている。社員が出社したくなる環境、会議や集中作業、休憩、交流を支える共用機能が、ビル選定の判断材料になっている。築古ビルが新築ビルと正面から設備仕様で競うのは難しい。だからこそ、既存ストックならではの空間をどう再編集するかが問われる。

 

店舗リノベは「点」から街の価値を変える

一方、店舗リノベーションでは、建物単体の収益性に加え、エリア価値の向上が大きな意味を持つ。安田不動産が日本橋浜町で進める「(仮称)日本橋浜町3-14計画」は、築69年の木造民家をリノベーションし、タルト専門店「AM STRAM GRAM」を誘致する計画だ。物販店舗として2026年8月の開業を予定しており、敷地面積は50.57㎡、延べ床面積は69.02㎡であり、規模だけを見れば小さなプロジェクトである。

しかし、この小ささにこそ意味がある。安田不動産は日本橋浜町で、「住み続けられ、働き続けられるまちづくり」を掲げ、大規模な面開発ではなく、中小規模の点開発によって路面型店舗を継続的に誘致してきた。2015年以降、「手しごと」と「緑」の見えるまちをコンセプトに、飲食、ホテル、交流拠点、店舗などを重ねることで、街の個性を形成してきた。今回の計画もその延長線上にある。

ここでの収益性は、単体店舗の賃料だけでは測れない。魅力ある路面店が増えることで、来街者が増え、周辺物件の評価が上がり、エリア全体のブランド力が高まる。結果として、住宅、オフィス、店舗を含む保有不動産全体の価値向上につながる。リノベーションは、建物の再生であると同時に、街を編集し直すことでもある。

 

建築費高騰は追い風か、逆風か

では、建築費高騰はリノベーション事業にとって追い風なのか。答えは半分イエスであり、半分ノーである。新築コストが上がれば、既存建物を活用するリノベーションの相対的な優位性は高まる。都市部の好立地にある築古物件は、新築では再現しにくい立地価値を持つ。解体・新築よりも短い期間で市場投入できる可能性もある。環境負荷の低減や既存ストック活用という社会的要請にも合致する。

だが、リノベーションも建築費高騰から逃れられない。内装材、設備機器、空調、電気、給排水、防水、外壁、耐震、法規対応などの費用が上昇しているからだ。築古物件では、工事を始めてから想定外の劣化や不具合が見つかることも少なくない。アスベスト対応、配管更新、雨漏り補修、消防・避難計画の見直しなどが加われば、当初の投資計画は簡単に崩れる。

とりわけ注意すべきは、「見た目の刷新」と「収益改善」を混同することだ。デザイン性の高い内装や話題性のある共用部を整えても、賃料上昇、稼働率改善、退去抑制、運営コスト削減につながらなければ、投資回収は難しい。

リノベーション事業では、改修後の賃料をいくらに設定できるのか、空室期間をどれだけ短縮できるのか、共用部を設けることで専有面積の減少を補えるのか、管理コストは増えないのか、将来の大規模修繕費をどう織り込むのか。これらを数字で検証する必要がありそうだ。

 

成否を分けるのは「誰のための再生か」

これら3つの事例に共通しているのは、単に建物を改修しているのではなく、明確な利用者像を持っている点だ。

大井町の賃貸レジデンスでは、都市生活者の暮らしを建物全体で支える。錦糸町のオフィスビルでは、ワーカーの集中、休憩、交流を共用部で補完する。日本橋浜町の店舗では、地域の文脈に合う路面店を誘致し、街の魅力を積み上げる。

つまり、収益性を生むのは「築古を直した」という事実ではない。誰に、どんな体験を提供し、その対価をどう得るのかという設計である。

これからのリノベーション事業は、単なる建築工事ではなく、マーケット分析、運営計画、ブランディング、地域戦略を含む総合的な不動産ビジネスになる。建物の状態を読む力だけでなく、利用者の変化を読む力が求められる。

 

今後の展望――選別されるリノベーション市場

今後、リノベーション市場は拡大する可能性が高い。新築コストが高止まりする中で、既存ストックを活用した収益改善のニーズは強まる。企業のCRE戦略、個人投資家の収益物件運用、デベロッパーの保有資産活用、自治体の空き家・空き店舗対策など、需要の裾野は広い。

一方で、すべての築古物件が再生できるわけではない。立地、建物状態、法規制、構造、管理状況、周辺需要、取得価格のいずれかに大きな問題があれば、リノベーションによる収益改善は限定的になる。建築費高騰下では、むしろ失敗案件の傷は深くなる。

今後伸びるのは、安く買って表面的に改装する事業者ではない。建物診断、改修範囲の見極め、テナント需要の把握、運営設計、エリア価値向上までを一体で組み立てられる事業者である。

リノベーションは、もはや「古いものを新しく見せる」手法ではない。既存不動産を、いまの暮らし方、働き方、街の使われ方に合わせて再定義する成長戦略である。

建築費高騰の時代、不動産の収益力を左右するのは、どれだけ大きく建てるかではない。すでにある建物を、どれだけ賢く使い直せるかである。

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