今、住宅・不動産業界では、東京都千代田区が分譲マンションを投機的に短期転売することを禁止することを業界団体の不動産協会に要請したことが大きな話題になっている。千代田区は東京都心部であり、新築・中古マンションで販売価格が高騰し、坪単価が700万円前後という取引が珍しくない。1億円を超えるマンションはざらにある。こうした現状について、同区は千代田区に住みたいと考える人が諦めたり、分譲価格の高騰とともに賃貸住宅の家賃も高騰しているとして、これらの事象は、投機的な動きが大きな理由だと訴えている。不動産協会では、国土交通省の調査結果を待って、同協会としての取り組みを発表する予定だが、現状の短期転売問題を整理してみる。
今年7月の参議院選挙では、外国人問題が急浮上した記憶は新しい。外国人が大挙して来ると、国内治安が悪化するといったことがSNSで吹聴され、その矛先が不動産取引にまで及んでいる。東京都心部のマンションを海外投資家が買い漁り、所有者が住まずに賃貸に出したり、誰も入居していなくて空室状態になっている住戸が目立つというものだ。
だが、マンション価格の高騰は、外国人による投機的な取引が挙げられることが多いが、不動産協会としては、「その影響はごく限定的なものである」と公表している。そして、特に新築分譲マンションについて、価格上昇の理由として第一に挙げられるのは、土地代と建築費などの原価が高騰していることだと反論している。
原価の高騰が住宅供給にも大きな影響を与えて、供給戸数が大幅に少なくなった。一方で、若年層や子育て世帯の住宅購入意欲は旺盛であり、「実需を基軸としてマーケットの需給バランスが大変タイト」になっていることも価格を押し上げている要因としている。
そうした状況を踏まえての短期転売に関する認識では、「物件によっては一定数の短期転売の事例があることは否定しないが、国土交通省が進めている短期転売の実態調査の結果を待ちたい」として調査結果で現状が明らかになるとのスタンスだ。
しかし、この転売禁止要請に実現性は難しい。短期転売について、投機目的の人もいるが、実需で購入したが転勤など会社の都合や、リストラや離婚など家庭の都合などで購入後5年経たずに家を手放さざるを得ない人も存在する。ここら辺の線引きが難しい。引き渡し後に購入価格から実勢価格が大幅に上昇していれば、投機目的で買ったわけではないが売却する実需層も存在する。転売の有無と居住の実態を把握することは極めて困難である。
千代田区は、販売の際に転売禁止特約を付けることを求めるが、実は不動産事業者にできることは少ない。実効性という意味において問題もある。例えば、引き渡した住戸が転売禁止特約に違反して、それが把握できたとしても「契約を解除して引き渡しをしない」ということを履行する手段を事業者にはないからだ。そもそも「転売禁止特約」を付与することは、憲法の「財産権の保障」に抵触する。自由経済において私的財産の処分に関する権利に制限をかけることに慎重にあるべきだとする。
また、転売禁止特約の違反を想定して買い戻し特約を付したとしても、不動産協会では、「買い戻しを実行するための協議がスムーズに進むとは限らず、最悪の場合は民事訴訟に訴えるしかない」として事業者側にとって多大なコストと時間を要する。そもそも不動産開発事業者は、所有権が事業者の手を離れる引き渡しまでしか対策を講じることはできない。実効性に欠けると訴えている。
短期転売問題の取り組みとしては、不動産協会各社の判断の下に物件の特性に応じて販売戸数制限などの対策を講じてきたことと、今年度に入ってからさらなる対策の検討も行ってきたという。前述した国土交通省の調査結果を踏まえて協会の取り組みについて発信していく予定だ。
今回の不動産協会に対する千代田区の要請は、参議院選挙で争点となった外国人問題を受けて国民の不満をガス抜き的に発出された感もぬぐえない。本気でやる気であるならば、不動産協会だけでなく、中堅デベロッパーが加盟する全国住宅産業協会(全住協)であったり、住宅メーカーが加盟する住宅生産団体連合会(住団連)といった業界団体にも同様の要請が必要だ。仮に不動産協会の加盟社が要請に対応したとしても、全住協の加盟社が蚊帳の外では意味をなさない。
ちなみに、兵庫県神戸市では、タワーマンションの空室部分に空室税を設定することが検討され、話題を集めている。今年度中に一定の方向性を示す方針だ。こうした税は、「法定外税」といい、地方自治体は総務大臣の認可を得れば国で税制を変えなくても条例で設定することが可能となっている。