東京各所で大規模な再開発ラッシュが進められている。東急グループが推進する100年に一度といわれる渋谷駅周辺の大再開発を始め、三菱地所が東京駅前常盤橋に開発中の「トーチタワー」は、日本一の高さを誇る地上390mの超高層ビルとして2028年に竣工予定だ。東京駅八重洲口では、東京建物が東京駅直結、国家戦略特区の大規模複合再開発「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」を推進中でオフィス、医療施設、劇場・カンファレンス施設、バスターミナル、商業施設、住宅等を整備し2026年の竣工を予定する。そんな中で、ひと足先に今年9月に全体開業を控えているのが東京・芝浦エリアと浜松町駅をつなぐ「BLUE FRONT SHIBAURA TOWER S」である。
この芝浦プロジェクトは、大手デベロッパーの野村不動産と東日本旅客鉄道(JR東日本)が共同で推進する国家戦略特別区域計画(国家戦略特区)の特定事業だ。区域面積は、およそ4.7haに及び、高さが約235mで延べ床面積が約55万㎡となる。浜松町ビルディング(旧東芝ビルディング)の建て替え事業としてS棟とN棟のツインタワーが開発されるものだ。
約10年間に及ぶ大再開発である。このツインタワーのうち、南側の1棟目「TOWER S」と外構部の飲食店舗が今年3月に竣工した。TOWER Sには高級ホテルの「フェアモント東京」が7月に開業する予定で、8月にはオフィスフロア、9月に商業店舗が順次オーブンする。野村不動産ホールディングスは、野村不動産を始めとするグループ各社の本社を芝浦プロジェクトのS棟に7月に移転させることも決めた。
TOWER Sの概要としては、地上43階地下3階建てで、オフィス・高級ホテル・商業施設・住宅で構成され、高層部分(35~43階)に日本初進出のフェアモントホテルが開業、中層階(7~33階)には「TOKYO WORKation(トーキョー ワーケーション)」をテーマに1フロア約1500坪のオフィス専有部と自然環境を生かした共用部からなるオフィスフロアとなり、低層階(1~3階)と外構部には、地域のハブとなる2つのフードコートを中心に商業施設を約40店舗展開する。
TOWER S開業に向けて5月30日には、JR浜松町駅から芝浦エリアをつなぐアプローチ「GREEN WALK」内に飲食店舗が先行開業する。GREEN WALKは、浜松町駅や竹芝エリアと、芝浦エリアとの回遊性を高めるために、港区道の歩行者専用道路を中心に植栽や水景が整備されている。一部の外構照明と水景施設への電源供給には、同エリア内に設置した「グリーン水素により発電を行うエネルギーシステム」による再生可能エネルギーを利用する。引き続き整備を続けて浜松町駅北口・竹芝方面までの伸長を予定している。
また、2カ所に点在していた既存の区立公園を芝浦プロジェクトの北側敷地に集約し、約1620㎡の公園として整備した。ワーカーと近隣住民がくつろげる親水公園として運用される。
こうした大規模再開発は、地域経済を活性化させる起爆剤としての役割に期待が集まる。内閣官房の「都市再生の経済効果」によれば、人口や世帯数、従業員数、地価水準等の各指標において増加が確認でき、滞留人口も増加しているという。地価を押し上げる効果や、オフィスの賃料水準を上昇させる効果が見られるとも分析している。
これに加えて、コロナ禍から急回復した外国人観光客が宿泊関連事業者を色めき出たせている。それは国内外を問わない。ホテル需要は年間365日を超えてホテルが足りない状態に陥るとの推計もあり、特に外国人が好むハイクラスのホテル不足が顕著なだけに、そこを狙い撃ちする格好で、芝浦プロジェクトでは日本初進出のフェアモントホテルを誘致することに成功した。東京・JR浜松町駅前では、東京建物などが参画する「世界貿易センタービルディング本館・ターミナル」の建て替えプロジェクトで著名ホテルの「ラッフルズ」の誘致に成功し、2028年に開業する予定だ。先行者利益を得ようと競うように高級ホテルが進出する。
こうしたことから当然ながら芝浦プロジェクトにより、地域の価値が従前よりも高まることは間違いない。再開発エリアの周辺では、新築分譲マンションの供給も相次ぐ。実際、芝浦エリアを見ると、「ブランズ芝浦」(総戸数62戸、東急不動産)や「CITY TOWER THE RAINBOW」(同264戸、住友不動産)、「シティタワー東京田町」(同180戸、住友不動産)、「リビオタワー品川」(同815戸、日鉄興和不動産)の開発が進んでいる。いずれのマンションも高水準での販売価格が見込まれ、2億~3億円クラスは少なくないとみられる。
また、芝浦・田町エリアの地場不動産事業者は、「再開発よって地元がさらに活性化するのは好ましいことだ。地域経済の発展につながり、我々の不動産取引にも好影響を及ぼしている。新築分譲マンションだけでなく、中古マンションの取引価格も高い水準だ」と顔をほころばせる。地元の商店街の関係者は、「再開発に伴い進出してきた新たな店舗との競合があるものの、新たな住民が流れ込んでくることで、そうした人たちを取り込めるチャンスでもある」と不安と期待を抱えているようだ。
芝浦プロジェクトに話を戻せば、S棟の全面開業で終わりではない。2027年度にN棟に着工する予定だ。N棟は地上45階地下3階建てで、S棟と同様に高さ約235mとなり、2030年度の竣工を計画している。東京・芝浦の大変貌劇は続いており、さらなる発展が見込まれそうだ。