日銀は、1月23日と24日の金融政策決定会合で政策金利を半年ぶりに引上げて0.5%に決定した。昨年3月にマイナス金利政策解除を始めとする大規模金融緩和を終了させて、7月には政策金利を0.25%に引き上げた。今後、住宅・不動産業界は、利上げに対する警戒感が上がると思われるが、果たしてあと何回利上げがあるのか。
昨年の7月の利上げの際には、国内外の経済界、市場関係者は、日本が本格的な利上げ体制に移ったとの見方が広がり、株価が暴落し、ドル円ベースの為替市場も円高に振れた。これは日銀が利上げ前に市場との対話が十分にできていなかったことが要因とされ、それを踏まえて、今年1月の利上げ前には、金利を上げることをさまざまな形で地ならしをして実施。具体的には、日銀副総裁を始めとする委員が関係各所の会合や講演の場で、金利上昇に向けての発言が繰り返された。
日銀は昨年7月に政策金利である短期金利(無担保コール翌日物)を0.25%とし、今回、半年ぶりに0.25%引き上げて0.5%にした。住宅・不動産各社は、有利子負債を多額に抱えていることで、利上げにより業績が悪化するとの見方が広がる。多くの不動産会社は、低金利時に長期で借り入れをするなどの対応を採用しているが、今後、利上げが断続的に実施されれば、うかうかとしていられない。将来の開発事業でデット資金の調達環境に影響するだけに要注意だ。
今後の日銀金融決定会合は、年内に3月、4月、6月、7月、9月、10月、12月と7回ある。もちろん、毎回利上げを検討することはないにしても、最低でもあと1回は政策金利を引き上げてくるとみられる。つまり、利上げのスピード感が最も重要なテーマとなっているが、次回の利上げは9月に0.25%引き上げて0.75%にするという見方が強い。1月から半年後の7月という観測もあるが、今年は選挙の年でもあり、微妙に政治情勢がからんでくる。
■参院選、都議選など政治日程が絡む
すでに地方での市町村単位での首長選挙が実施されているが、大きなところで見れば、7月の参議院議員選挙と都議会選挙の政治イベントが控えている。
石破茂首相は衆議院を解散し、昨年10月に選挙を実施したものの大敗を期し、11月11日に石破茂首相は、少数与党下での第2次政権を発足させることになった。自民・公明の与党が過半数を割り、野党との協力なくして予算や法案が成立しない状況に追い込まれているだけに、金融政策でも野党に突き入れられたくないだろう。
野党との協力なくして予算や法案が成立しない状況だ。仮に野党からの協力が得られず再び石破首相が衆院を解散すれば、衆参同時選挙というシナリオも考えられる。日銀としても、こうした機敏な政治環境下に金融政策でタカ派的な利上げ姿勢は示しづらいと考えるのが普通だ。政局の混乱期を避けたいという判断が優先される。
■中小企業の賃上げ確認後に判断する
もう一つ日銀が利上げをする際に重視するのが賃上げ動向だろう。厚生労働省がまとめた2024年の実質賃金は年間ベースのマイナス幅が前年から縮小している。春季労使交渉(春闘)では、昨年、一昨年と高水準の賃上げを実現した。24年春闘賃上げ率は33年ぶりに5%を超えた。今年の春闘でも3%以での高水準での賃上げが期待されている。春闘では、大手企業の動向であるが、問題は中小企業である。体力的にどこまで賃上げできるかだが、中小企業の賃上げ状況が確認できるのが8月頃であるため、日銀が利上げをするならば、その情勢を確認してからだと考えれば9月利上げ説が有力となりそうだ。
2025年の利上げ観測は、9月を含めて2回あるとされる。では、このペースで2026年以降も利上げをするのかだが、専門家はそうではない。外資系証券のマクロチームは、2025年の2回の利上げ以降、利上げはないとのスタンスを取っている。2026年末まで0.75%の政策金利を維持するとの見立てでいる。もっとも、会社の業績が過去最高、賃上げが続いていると言っても、物価高を上回るほどの賃上げが実現できていない。賃金とインフレの持続的な上昇気流は続く見込みであるが、インフレ経済に追い付いてないのが実態だ。
■長期金利は今後の2年以内に再び1%切る
日銀としても、過去の金融緩和で大量に国債を引き受けていることで、金利上昇により含み損が拡大し、日本の財政赤字も膨張する。日本の財政赤字は1100兆円を超えている。長期金利(10年国債利回り)についても、足元では1.2%程度であるが、これが今後1.5%、2.0%と切り上がっていくとの見方はほとんどない。つまり、実質金利が1%以上になるためには、名目金利が1%以上になることが必要であるが、日本経済の潜在成長率は、新興国のような成長率が期待できるわけではないことを考えれば、長期金利が2%を超える水準になることはなさそうだ。実際、日本は2000年以降に2%に達したことはない。このような背景から、長期金利の動向として2025年末に1.1%程度と2024年末と同じ水準に落ち着き、2026年には0.65%まで下げる可能性を指摘する専門家もいる。
■米国政策の失敗を端緒に世界景気失速も
米大統領に返り咲いたトランプ政策も、遠からず日銀の金融政策に影響を与えそうだが、就任早々から世界に波乱を巻き起こしている。一律に関税引き上げが実施されれば、日米の財政・金融政策に影響を及ぼす公算が大きい。トランプ政権前までは、米国の利下げは2025年に4回、2026年に4~5回という算段だったが、これに待ったがかかった状況になり、利下げ回数が大幅に減る見通しとなった。米連邦公開市場委員会(FOMC)は、1月29日に政策金利の据え置きを決めたことで、日銀が利上げを決めたにもかかわらず、思っていた以上に日米金利差が縮まらないことで円安状態から抜け出せるような雰囲気ではない。
米国経済が想定以上に強いことに加えて、FRBがトランプ政策を見極めるために政策金利を据え置きとしたことで円高機運が醸成されにくくなった。トランプ政権は、ドル安を志向しているとされるが、同氏が望むドル安とは違うベクトルになっている。円高観測を前提にした日本の金利観測に影響を及ぼす可能性もある。
とはいえ、米国の2026年のGDP予想としては、関税や移民政策により経済が引き下げられ、米国経済の悪化によりドル安に転じる可能性もある。米政権は2月1日にカナダとメキシコに25%の追加関税、中国に10%の追加関税を実施すると発表した。世界的に景気が後退するリスクが高まる。景気が後退していくと、不動産マーケットにも影響を及ぼし、インフレ期待が低下し、キャッシュフローにも悪影響を及ぼしかねない。トランプ政策の失敗を端緒に経済の急速な鈍化に陥ればタカ派的な利上げ政策に日銀が転じることは考えづらい。