巨大地震に対する警戒感が急速に高まっている。2024年は、元旦早々に能登半島を地震が襲った。能登半島北東部で発生し、震源およそ16㎞で地震の規模を示すマグニチュード7.6、最大震度7だった。未だに断水が続き、倒壊した家屋も手つかずのままの地域が多い。4月には、四国の愛媛県と高知県内で豊後水道を震源とする震度6弱の地震が発生した。今年はなにかと地震が多く、1995年1月17日の阪神・淡路大震災、2011年3月11日の東日本大震災のような巨大地震の発生に身構えている。目下の心配ごとは南海トラフ地震と首都直下型地震だ。そんな地震大国にありながら日本は超高層ビル、超高層マンションなどが乱立するが、巨大地震を想定した構造が強みだ。
総務省の「住宅・土地統計調査」をもとに国土交通省が推計した国内の耐震化率(2018年時点)は約87%となり、これをマンションなど共同住宅だけで見ると、耐震化率は約94%に達する。共同住宅の総戸数約2490万戸のうち、「耐震性があり」は約2350万戸である。国は2030年までに耐震性が不十分な住宅もおおむね解消することを目標としている。
中古マンションの取引でよく話題にされるのが、その建物が旧耐震基準のものか、新耐震基準のものかである。新耐震基準とは、1981(昭和56)年6月1日に施行されたもので、震度6~7の地震でも建物が崩れ落ちないとされる。1981年以降に竣工した建物は新耐震基準を満たす。この新耐震基準は、建物がまったく損壊しないということを想定しているわけではなく、命を守るための最低限の基準である。
「耐震等級1」「耐震等級2」「耐震等級3」の基準もあるが、これは2000年4月1日に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)が定めている「住宅性能表示制度」に基づく耐震性を指す指標だ。耐震等級1は、阪神・淡路大震災クラスの地震でも倒壊しないとされ、耐震等級2は等級1の1.25倍、等級3では等級1の1.5倍の力を受けても倒壊・崩壊しないレベルの耐震性を示す。
大地震では、震度そのものに加えて、長周期地震動により遠方までエネルギーを失わずに震動が伝わることで高層のビルやマンションが横に揺れ動く現象も現れる。東日本大震災のときに首都圏の高層マンションの上層部では、「冷蔵庫が右から左に吹っ飛ぶほどマンションが揺れた」(千葉市内での経験者)。阪神・淡路大震災や東日本大震災を受けて、最近の高層マンションには建物の揺れを防ぐ機能を導入するのが一般的だ。三井不動産と三井不動産レジデンシャルが、JR中野駅北口で開発中の分譲マンション2棟のうち、地上24階建ての「パークシティ中野 ザ タワーエアーズ」(総戸数545戸)に制震構造を採用し、地上20階建ての「パークシティ中野 ザ タワーブリーズ」(同262戸)には基礎免震構造を採用している。
制震構造は地震の揺れを建物内で吸収する仕組みで、建物内にダンパーを設置して自動車やバイクなどのサスペンションのような働きをし、地震の揺れのエネルギーを外に逃がすものだ。ゴムダンパーやオイルダンパーなどが用いられ、室内に伝わる揺れを軽減してくれる。地震に限らず、台風などの強風を受けても揺れない。免震構造では、マンションなどの建物と地盤を分離して地震の揺れが直接伝わらないようにする仕組みで、特に横揺れに強いことが特徴だ。
ただ、それぞれに強みと弱みもある。制震工法は、地盤が軟弱な場合は効果を発揮しきれず、免震工法では縦の揺れに弱く建物と地盤が切り離されている構造のため強風で揺れを感じることもある。導入コスト的には、制震構法のほうが免震工法よりも低コストで済む。それぞれの物件は、販売価格の見合いや地盤などの開発立地を踏まえて採用する工法が違っているようだ。
このほか巨大地震では、液状化現象が注目される。地面がゆがんで道路が波を打ったようになったり、噴砂によりマンホールなど地中の構造物が浮き上がり、電柱が傾いたり沈下したりする。能登半島地震では、長周期震動のエネルギーが遠くまで広がり、幅広いエリアで液状化が発生した。特に地盤の弱い低湿地帯は地耐力が低い可能いが高いため、鉄筋コンクリート造のマンション開発では、支持地盤まで杭基礎を打ち込む設計が重要になる。
最近の新築マンションの開発では、地盤調査を行うが、それにより判明した地耐力に応じての基礎の設計と地盤改良などで対応することが一般化してきている。地盤改良では、薬剤を注入して地盤を固めるなどの方法が用いられる。ちみなに液状化しやすい条件として、地盤の強弱を現わすN値が20以下で緩い砂らが堆積していたり、地下の浅い場所に地下水がある、長い周期での地震動、震度5弱以上といった条件がそろうと液状化しやすい。
また、一般消費者にとって中古物件を購入する際には、不動産会社が耐震診断の記録の有無などについて調査・説明の義務があることを知っておくことも必要だろう。新築であっても、中古であっても労を惜しまずに情報収集することも欠かせない。
今後の備えとして、消費者は液状化マップなどを使いながら液状化履歴などを調べて、どの地域が液状化する可能性が高いのかなど地形や人工改変を確認することも手立ての一つだし、古地図を活用して街の成り立ちをさかのぼることも一案である。例えば、過去に沼や池、田んぼ、河川などの湿地帯であったかを判断できる。ざっくりと数百年単位で人が住み続けている地域かどうかが一つの目安ともされる。過去から情報を拾い上げて、現代と照らし合わせながら見てみるのも面白い。