パンデミックの直撃を受けた大阪。特にミナミは訪日客需要を引きつけていたところに新型コロナに見舞われて街は閑散とし、地価が急落した。しかし、昨年5月に新型コロナウイルスが感染症法上の5類となり、季節性インフルエンザと同じになり、経済社会活動が正常化に動き出したのを機に風景が一気に変わった。今年3月26日に国土交通省が公表した公示地価がそれを証明している。
全国の全用途平均が3年連続で上昇だった。今年1月1日時点の調査結果。全国の最高地価は、18年連続で東京・銀座4丁目の「山野楽器銀座本店」で1㎡当たり5570万円(3.5%上昇)である。三大都市圏でも全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続で上昇し、上昇率も拡大した。東京圏と名古屋圏は全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続で、大阪圏は全用途平均・住宅地が3年連続で商業地が2年連続で上昇し、上昇率が拡大した。
住宅地の全国最高価格は、東京都港区赤坂1丁目で1㎡当たり535万円(4.5%上昇)だった。その住宅地の全国上昇率トップ10を見ると、北海道が7地点を占めて、3位に沖縄県宮古島、7位に福岡市博多区、8位に長野県白馬村がランクインした。1位の北海道富良野市は、リゾート地の「北の峰地区」で外国人需要が旺盛なことから上昇率27.9%となった。2位は北海道千歳市(23.4%上昇)だった。
地方圏も同様に全用途平均・住宅地・商業地のいずれも3年連続で上昇し、地方四市(札幌市・仙台市・広島市・福岡市)では、いずれも11年連続で上昇している。
三大都市圏での最高価格や最大上昇率地点を見ると、再開発事業に対する期待感や鉄道新路線などの交通利便性の向上、訪日客の急増に伴うインバウンド需要が地価上昇を牽引している。
東京は再開発ラッシュだ。JR線中野駅周辺で商業地価は12%台の上昇率を示している。「中野5-12」の地点では1㎡当たり353万円となり、「中野5-1」の地点は同539万円だった。新宿駅周辺でも再開発事業による街の発展期待に伴い全国価格で5位と6位の地点があり、それぞれ1㎡当たり3800万円、3690万円となっている。
名古屋圏では、「ミッドランドスクエア」が1㎡当たり1950万円(2.6%上昇)となり、5年連続で名古屋圏の価格1位となった。同圏内の最大上昇率は名古屋市内の「トヨタホーム栄ビル」が15.0%となり、価格は314万円だった。住宅地では、地下鉄伏見駅徒歩圏で強含み傾向にあり、名古屋市中区が7年連続で名古屋圏価格(同190万円)の1位となった。
公示地価で大阪圏の回復度合いを測ると、とりわけ大阪圏の収益力の回復が目覚ましい。コロナ禍での急落から一転、地価の回復基調がはっきりと表れている。全用途平均は2.4%、住宅地が1.5%、商業地が5.1%の上昇率を見せたが、大阪府の商業地価は6%の上昇率で前年より3.5ポイント拡大した。
住宅地価を見ると、北大阪地域は、大阪メトロ御堂筋線、阪急線、JR線など各沿線の駅徒歩圏で交通利便性や生活利便性に優れた地域の住宅需要が堅調に推移している。豊中市や吹田市、高槻市、茨木市、箕面市をはじめとする8市町で上昇率が拡大。東大阪と南大阪地域では、交通利便性に優れた大阪市と比較した割安感のある地域の住宅需要が堅調に推移しており、守口市や枚方市、寝屋川市、大東市、門真市など14市で上昇率が拡大している。
大阪中心の大阪市に目を向けると、9.4%上昇し、前年から6.1ポイント拡大し、全24区で上昇率が拡大した。同市内でも福島区、北区、中央区、西区、浪速区では、マンション需要との競合もあって高い上昇率を示した。
道頓堀がコロナ禍からの急回復を遂げている。訪日客の増加に伴うもので、商業地を見ると、「新世界串カツいっとく道頓堀戎橋店」が1㎡当たり620万円(25.3%上昇)と前年の1.0%の上昇率から大幅な上昇となり、全国上昇率で8位に躍り出た。大阪圏での上昇率も1位となり4年連続だ。「デカ戎橋ビル」は1㎡当たり2140万円(13.8%上昇)となった。大阪市内随一の繁華街としてインバウンド需要などが回復したミナミへの期待感が大きく反映されている。
なんば駅周辺では「大阪5-15」が1㎡当たり850万円(22.1%上昇)と前年の1.0%上昇から飛躍的な上げ幅だ。心斎橋周辺では、「御堂筋ビル」も前年の2.8%上昇から今回は10.0%上昇率を見せて1㎡当たり1210万円、「サンドラッグ心斎橋中央店」が前年0.0%から今回15.8%上昇となり、同1540万円だった。
こうした大阪・ミナミに限らず、ビジネス需要が旺盛なキタも復権している。大阪駅周辺では、うめきた2期地区市街地再開発事業が地価を押し上げている。同事業は2024年に一部開業し、2028年に完成予定だ。「グランフロント大阪南館」の地価は、1㎡当たり2360万円(5.4%上昇)と大阪圏の地価最高額として4年連続となった。
観光地の地価動向としては、京都も強含んでいる。京都府は3年連続で上昇し、その上昇率は1.6%だった。京都市は2.5%の上昇で牽引した。同市東山区は1㎡当たり389万円(14.4%上昇)となり、前年の6.3%上昇から大幅に上げている。訪日客による店舗需要が増大して地価を押し上げている。
地方四市を含めて大都市部での地価の回復が見て取れる中で、引き続き地価が下落傾向になっている地点もある。地価下落率の商業地ワースト1位は、石川県珠洲市の地点で7.7%の下落率だった。これは、今年元旦に発生した能登半島地震による影響は反映されていないので、人口減少の進展に伴う過疎化が要因となっている。ワースト10には石川県が4地点、北海道が2地点、宮城県が2地点、愛知県と岩手県が1地点だった。公示地価の「地方圏その他」を見ると、下落地点の割合は全用途で39.8%、住宅地で41.9%、商業地で39.4%が依然として下落が続いている。
ちなみに、今回の地価上昇率トップ10を見ると、商業地の1位は熊本県菊池郡大津町(33.2%上昇)、2位に熊本県菊池郡菊陽町(30.8%)となり、世界大手の半導体メーカーであるTSMCの工場進出が地価を大幅に引き上げてワンツーフィニッシュを決めた。上位10地点のうちの5地点(3位、5位、6位、9位、10位)は北海道が占めた。こちらも北海道千歳市で半導体メーカーのラピダスが進出したことが大きな要因で、プロ野球の本拠地が北広島市に移ったことも地価を引き上げている。
4位には、長野県白馬村の「こいや」(30.2%上昇)がランクインし、ここでは八方尾根スキー場が近いことで訪日客需要を取り込んだ。5位は千歳市千代田町の「東宙ビル」(29.3%上昇)、6位が千歳市錦町の「ビジネスホテルホーリン」(28.8%)、7位には千葉市美浜区の「コストコホールセール幕張倉庫店」が入り、27.1%の上昇率で東京圏の1位だった。8位前述したが大阪・道頓堀の「新世界串カツいっとく」、9位が北海道北広島市の「北海道銀行北広島支店」(23.3%)、10位が北海道札幌市の「ほくていビル」(23.0%)だった。