実績豊富!東京5区エリアの不動産売買 信義房屋不動産(しんぎふさやふどうさん)

不動産レポート



店舗ビル収益力の回復が遠のく

ポストコロナ、中長期を見据え投資戦略を

感染症の対策で人流の抑制ができていない。〝コロナ慣れ〟もあるが、政府が国民の動きに制限をかけようとする一方で、東京五輪・パラリンピックを強行。新型コロナウイルス拡大を受けて昨年は、スポーツに限らず学生の全国大会が相次いで中止になったりするなど一生に一度の出来事を奪われた若者だけでなく、現在のこうした対応は、ダブルスタンダードだと腹を据えかねて国民が政府の言うことを聞かなくなっている。東京都の1日の感染者数も 4000 人を突破。感染拡大が止まらず、経済への悪影響が長引くと、それが不動産市場に波及しないか。マンションなどの住宅分野は足元好調に推移しているが、商業用不動産、特に飲食店をメインとする店舗ビルなどの収益力の低下が長引くことに懸念が及ぶ。ポストコロナを見据えながら商業用不動産の状況について現状と見通しを探ってみる。

売却案件が少なく品薄の不動産投資市場

コロナの影響は個々の分野でどのような影響を与えているのか。不動産サービスを提供するJLLでは、そのコロナ禍からの回復度合いを「リカバリーインデックス」として公表している。2020 年1月を 100 とする指数に対して現状がどの水準にあるのかを調べているもので、7月に公表した直近5月末時点の状況を見ると、総合指数の「社会経済インデックス」は 77.7 ポイントだった。4月末時点から 8.4 ポイント低下して今年1月以来の低い水準となった。感染第4波による3度目の緊急事態宣言の影響を反映している。

リカバリーインデックスは、社会経済全体を俯瞰している総合指数に加えて、ヘルス、金融、雇用、生産、需要、モビリティ、不動産とそれぞれサブインデックスを作成している。

それを見ると、コロナ感染者数と死者数の増加により、ヘルス指数は 57.2 ポイントと4月末からの1カ月間で 20.7 ポイントと大幅に低下し、過去最低を記録した。ほかの指数で見ると、金融が 107.1 ポイント、雇用が 75.2 ポイント、生産が 95.5 ポイント、需要が 84.1ポイント、モビリティが 47.0 ポイントだった。唯一、金融が 100 を超えているものの、すべてのサブインデックスは前月比で指数が悪化している。

不動産インデックスは 64.0 ポイントだった。前月比マイナス 26.6 と大幅な悪化である。この不動産インデックスは、さらに賃貸市場と投資市場の2つに分けて指数を出している が、賃貸市場は 90.7 ポイント(前月末比マイナス 12.1)となり、投資市場が 37.4 ポイント(同マイナス 41.1)だった。賃貸市場に底堅さが感じられるが、投資市場が大幅に大落ち込んでいる。この投資市場の落ち込みは、売却案件が減っていることが要因と見られている。

ただ、JLLでは、国内外の投資家の需要の強さを受けてオフィスビルの取引価格が高くなっているため、保有から売却に動きをシフトしているほか、コロナ禍の直撃を受けた商業施設やホテルの売買が増え始めている。

既に広告最大手の電通グループが東京・汐留の本社ビルを売却することを正式に決めているほか、米大手ファンドのブラックストーンが近鉄グループのホテルを取得することが報じられている。こうしたコロナ直撃を受けた企業の不動産売却の動きで不動産インデックスの回復は早晩に訪れるのではないかと予想している。

高級品市場に勢いも店舗賃料の勢い今一つ

これからワクチン接種が進むことで経済の正常化に向けた期待も少なくない。しかしながら、そこに向けての道筋は視界不良と言わざるを得ず、その兆しは今のところ見えていない。日本百貨店協会が7月 26 日に発表した「全国百貨店売上高概況」(6月)を見ると、売上高の総額は 3715 億円余りとなり、前年同月比 1.6%減少して4カ月ぶりにマイナス圏に突入した。1~6月の上半期累計の伸び率は 10.3%増加したものの、コロナ前の 2019 年との対比では 27.3%減と大きく落ち込んだままだ。緊急事態対象地域の時短営業や外出自粛に伴う集客減が響いている。

エリア別の動向としては、東京や大阪などを含む 10 都市平均が 0.4%増加して地方が6.5%減となった。大都市と地方の差が前月より 3.6 ポイント拡大している。

商品別に見ると、身の回り品や雑貨、食料品の 3 つの品目で前年実績を上回った。これらは 0.6%~3%台の増加率だったが、高額品は 25.8%も増加した。株高を受けて富裕層を中心とする高額消費市場が活況であるためだ。高級時計、美術・宝飾品などの増勢が続いている。巣ごもり需要から菓子類や酒類、家電、家具などの商品も好調に推移している。家電は7カ月連続、美術・宝飾・貴金属が5カ月連続でプラスとなっている。

高級品市場に勢いが感じられるが、それが店舗不動産の賃料に反映されていない。不動 産サービスのCBREの調査によると、東京・銀座の 2020 年度第1四半期(4~6月期) の「ハイストリート賃料」は前期比 1.6%下落しており、月額賃料は1坪当たり 24.3 万円となった。出店ニーズが弱含みのエリアが存在しているためだ。

ラグジュアリーブランドの出店ニーズが強い「東京プライム賃料」でも月額坪賃料は 40万円と 22 期連続で横ばいである。東京だけでなく大阪でもプライム賃料は横ばいだ。大阪・心斎橋では、ハイストリートの御堂筋で月額 14.1 万円、プライム賃料が月額 25 万円となっている。これら賃料動向についてCBREは半年前の予測の範囲内に収まっているという。

とはいえ、同社では賃料が上昇に転じる時期を先送りした。従前の予測は第1四半期中だったが、これを第3四半期(10~12 月期)にしている。だが、この予測も爆発的な感染拡大が続けばさらに後退する公算も高い。

本来なら収益性の高い店舗ビルに買いチャンス到来も

JLLの調査でも株高による資産効果により富裕層市場は好調だが、総じて賃貸借活動の水準が低迷しているという。直近5月に同社が発表した「東京リテールマーケットサマリー」によると、新規店舗の出店需要は減退が続いていたが、中長期的な目線での出店計画に対する立地条件の良い路面店舗は退去後の後継テナントが決まっている。しかし、空中店舗の増加傾向が続いているとして物件によって明暗が分かれているようだ。

同社の調査では、東京 23 区の 2021 年 1~3 月(第 1 四半期)のリテール(店舗)に対する投資総額は 225 億円で前年比7割以上の減少となった。高級店舗が軒を連ねる銀座の賃料水準は、坪当たり月額 25 万円である。前期比で横ばいだが、前年比では1割以上の下落だった。同じく高級店舗が軒を連ねる表参道は1坪の月額賃料が 20 万円となり、銀座と同様に前期比横ばい、前年比 9.1%下落としている。

接種が当初の予定通りに進むかどうかもある。このような状況があることから賃料は今後1年間で 6.0%下落し、2022 年第3四半期に上昇に転じると見ている。向こう2年間では 5.1%減の水準まで持ち直すと予測している。

冒頭でも触れたようにコロナ感染者数は過去最高を塗りかえて拡大中だ。国民のワクチン接種率が 50%に達するのはもう少し後になる。この間に新たな変異株などが出てくると経済の正常化がさらに遠のいてしまう。店舗の収益性は経済との連動制が非常に強い。このため、不動産運用で強気に出られないものの、飲食・サービス向けで手放さざるを得ない店舗ビルなどの商業用不動産が市場に放出される可能性もある。

手放す側の事情にもよるが、相場よりも安く買える場面も想定できることから、ポストコロナ後を見据えて中長期戦略の目線からの買い場が来るとのシナリオを描くこともできる。経済活動が正常ならば十分なキャッシュフローを生み出す高収益店舗を選別して投資していくのも今後の投資戦略として一つの方法かもしれない。