実績豊富!東京5区エリアの不動産売買 信義房屋不動産(しんぎふさやふどうさん)

不動産レポート



新政権で金融緩和さらに長期化か

オフィス街と歓楽街で商業地に明暗

肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの大流行、いわゆるパンデミックが世界を襲い1 年 10 カ月近く過ぎた。この間に世界の社会活動、経済活動は劇的に変化せざるを得なかった。諸外国では都市封鎖(ロックダウン)で街が凍り付き、日本では外出自粛による人流の抑制や人と人が距離を置くソーシャルディスタンス、テレワークの実施などが求められ、飲食店は酒類の提供ができず営業時間の短縮を強いられた。海外渡航も止まった。そうした中で、ようやく緊急事態宣言が 10 月1日に解除され、社会活動と経済活動の正常化に向けての動きが本格化する。感染第6波に対する警戒感が残る中で下半期の不動産需要を探ってみる。

新型コロナウイルス禍を受けて 2021 年の都道府県地価調査(基準地価)は、全国全用途の平均で2年連続の下落となった。今年3月に発表された地価公示(1月1日時点)とほぼ連動する結果となった。基準地価は今年7月1日時点の1年間の地価動向で、約2万 1400 地点を調べたものだ。

商業地を見ると、東京圏で上昇率が縮小し、大阪圏では 9 年ぶりに下落に転じた。下落率の全国1位は大阪・道頓堀エリアで前年比 18.5%と大幅に下落した。価格は 1 ㎡当たり1900 万円となった。これに続くワースト2位も大阪なんばエリアで、その下落幅は 16.6%となり、価格は 442 万円だった。このほか京都府や兵庫県、東京都などがワースト 10 に入っている。地価の下落は場所によって違い、悪化の濃淡をくっきりと浮かび上がらせている。

大阪市中心部を見ると分かりやすい。ビジネス街の梅田と歓楽街のミナミで下落状況が違っている。大阪圏の最高地価である梅田エリアの「グランフロント大阪南館」は 2250 万円(前年比 4.7%下落)だが、前年の 8.8%下落から下落幅が縮んだ。前後半で見ると、前半が 3.0%下落、後半が 1.7%下落と徐々に回復傾向が見て取れる。

一方、道頓堀エリアの「住友商事心斎橋ビル」は昨年の 4.5%下落から 18.5%と大幅に落ち込んだ。前半が 9.4%下落、後半は 10.0%下落と悪化に向かっている。インバウンド需要で賑わっていた場所の収益力が訪日客の消滅とともに剥がれ落ちたことを裏付けている。

大阪だけでなく東京でも同様である。丸の内・大手町のビジネス街よりも訪日客を引き付けてきたエリアの地価が落ち込んでいる。訪日客が百貨店などで買い物することで潤っていたが、コロナ後はインバウンドと国内人流の抑制、営業時間の短縮などで業績につなげられずに収益力の低下とともに地価が下落になった。今後の地価動向は、コロナ禍で落ち込んだ経済・景気の回復が鍵を握っていることが分かる。

中核地方4市は底堅い需要が地価を支えた

底堅いのが地方圏である。とりわけ地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)は強く、4 市の平均を見ると、住宅地が 4.2%上昇し、商業地が 4.6%上昇している。4市別では、上昇率は次のようになる。

▽札幌市=住宅地 7.4%、商業地 4.2%▽仙台市=住宅地 3.6%、商業地 3.7%▽広島市=住宅地 0.7%、商業地 1.7%▽福岡市=住宅地 4.4%、商業地 7.7%となっている。

地方4市で特筆すべきところは福岡市である。商業地での上昇率トップ 10 には、博多や天神など実に8地点が福岡市内からランクイン。国土交通省の資料では、住宅地は福岡市及びその周辺への人口流入が続いていることが地価上昇の要因とし、商業地ではオフィスビル需要が堅調であり、二大プロジェクトが進行する博多地区と天神地区を中心とする地域では引き続きビジネス需要が堅調なことが地価を押し上げていると説明している。

札幌市についてもオフィス需要が堅調としている。札幌駅南口ビジネス街周辺に加えて、札幌駅北側や北海道新幹線のホームが設置される駅東側の地域などでも再開発計画の進展 とともに底堅いオフィス需要により収益性が低下した商業地を下支えている。コロナが地 価に与える影響は様々だ。土地需要の特性や地域の経済構造などが異なることや、再開発 事業など中長期的な要因で差が出ているためだ。

■オフィス街の地価の底打ちは近いとの見方も

新型コロナウイルスの感染で大きく変わった現象としては、在宅勤務を採用する企業が増えたことだ。テレワーク、リモートワークの言葉はすっかり市民権を得ている。緊急事態宣言が明けた今、社会経済活動の正常化が急がれるところ。ポストコロナを見据えての模索が続いており、在宅勤務は浸透したとはいえ、昨年春の緊急事態宣言がテレワーク実施のマックスの状態である。それ以降の出社率は少しずつ戻りつつある。

企業活動がコロナ前の水準に近づくようになるとともにオフィスの重要性が再認識される可能性が高く、海外投資家の姿勢としても、不透明感がある中で安定的な日本の不動産市場に強気の姿勢を維持している。「新型コロナウイルスでデルタ株が感染拡大などで経済が下振れる場合でも 2022 年末に向けて空室率の上昇はゆるやかに下がり、賃料の下げ幅も縮小を見込んでいる」(国内の証券会社)。オフィス街の地価底打ちは近いとの見方もある。

不動産サービスのJLLは、東京五輪後のオフィス市場について、東京都のテレワーク実施率調査をもとにレポートで次のように指摘している。東京の調査では従業員 30 人以上、計 458 社のテレワーク率は 6 月に 63.6%となり、統計を取り始めてから 3 番目に高い水準だった。しかし、東京都が調査したテレワーク実施率、社員割合、テレワークの実施回数をもとにJLLが換算した出勤者数の削減率は 25%ほどでと低水準にとどまっている状況がうかがえるという。

 

当面、岸田新政権と中国恒大問題に注目

ただ、足元の最大のトピックスとして新政権のかじ取りが急浮上した。菅政権が退陣し、 9月 29日の自民党総裁選に勝利した岸田文雄氏が 10 月4日、第 100 代首相になった。新内閣では、20 人の閣僚のうち 13 人が初入閣だ。不動産業界を管轄する国土交通相には公明 党の斉藤鉄夫副代表が就任した。岸田新首相はコロナ対応と経済の再生を両立させること を最優先課題としている。年内に数十兆円規模の経済対策(補正予算)を策定するととともに、経済格差の是正に取り組み「令和版所得倍増」を掲げている。

そんな新政権について、マーケット関係者は、「岸田政権は大胆な金融緩和によってデフレ脱却を優先事項としている。金融緩和がさらに長期化すれば不動産価格も高水準で推移する」と見ている。令和版所得倍増では、中間層への再分配に向けての関連政策が打ち出されれば潜在的な消費意欲が増して商業施設や宿泊施設が恩恵を受ける可能性があるという。

そしてもう一つ、大きなトピックスが追加される。中国不動産大手である恒大集団の問題がある。資金繰りが逼迫しており、これが世界に飛び火しないかとの懸念が強まっている。

この記事を執筆している 10 月4日時点の国内外のメディアを追うと、不動産大手の合生創展集団が恒大物業を買収し、取引額は 400 億香港ドルに上る可能性があるなどと報じ、恒大集団は資金調達のため資産の売却を進める予定だという。

これまで中国の経済成長は、不動産セクターに依存しているだけに恒大リスクをどのように軟着陸させるかに注目が集まっているものの、日本の不動産大手が中国で持つ事業リスクの大きさは非常に限定的なことから、今のところ恒大集団が日本の不動産市場に対して直接的に悪影響をもたらすとの見方は少ない。