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不動産レポート



新政権はアベノミクス継承 コロナ禍で郊外にチャンスはあるか

大規模金融緩和の低金利が続く

 

8年近くにわたる安倍政権が今年9月に終わりを迎えた。9月16日に臨時国会を召集し、首相指名選挙を経て菅義偉新首相が誕生。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で落ち込んだ経済社会活動を立て直すバトンを受け取った。コロナ禍では日本のデジタル化の遅れが浮き彫りとなり、格差社会の是正に向けての所得配分、地方創生の取り組みに注力する意向も改めて示した。新政権の今後の政策は、住宅・不動産市場にも影響を及ぼす。新政権を受けて不動産マーケットのゆくえを観測する。

 

 

基準地価は全国的に下落基調に

 

アベノミクスでは、株価や地価の上昇など資産デフレ脱却に向けて大きな効果があったとの評価がある一方で、所得格差が広がり所得の再分配や格差是正に政策を転換すべきだとの見方も浮き彫りとし、そこには地方経済や一次産業、中小企業、女性労働者の潜在的な可能性を引き出すことが不可欠だとする声があがっている。

 

コロナ禍で経済社会活動が停滞し、景況感は大きく落ち込んだ。戦後最悪の落ち込みとなった4~6月のGDP。内需主導の景気回復が鍵となる。

 

街中の消費は、緊急事態宣言解除後に徐々に戻りつつある。「Go Toトラベルキャンペーン」も10月から東京発着が対象に加わった。内閣府が10月2日に明らかにした消費動向調査(9月)によれば、消費者心理の明るさを示す消費者態度指数は前の月から3.4ポイント上昇して32.7と2カ月ぶりに改善した。緊急事態宣言前の3月(30.9)の水準を上回った。判断の引き上げは3カ月ぶり。

 

ただ、地価は下落に転じ始めた。国土交通省が9月29日に発表した「基準地価(都道府県地価調査)」は全国全用途平均が3年ぶりに下落に転じた。東京、大阪、名古屋の三大都市圏を見ると、東京と大阪の住宅地が2015年以来7年ぶりに下落し、名古屋では8年ぶりのマイナス。商業地では、東京と大阪が上昇を維持したものの、軒並み昨年から下げ基調となり、名古屋では商業地でも8年ぶりに下落した。

 

三大都市圏の最高地は、東京が「明治屋銀座ビル」で1㎡あたり4100万円(全国の最高価)となり、大阪圏が「グランフロント大阪」で同2360万円(大阪圏最高価)、名古屋が「大名古屋ビルヂング」で同1750万円(名古屋圏最高価)である。明治屋銀座ビルは5.1%下落し、グランフロント大阪が8.8%上昇、大名古屋ビルヂングが横ばい。商業地ほど新型コロナウイルスの影響を強く受けている。

 

三大都市圏の住宅地の最高地を見ると、東京は「港区赤坂」で1㎡あたり472万円、大阪で「大阪市天王寺」で62万9000円、名古屋で「名古屋市中区錦」で106万円だった。名古屋と横ばいだったが、東京は4.2%、大阪が3.6%とそれぞれ上昇を維持。上昇幅を縮めながらも上昇をキープしている。

 

実際、住宅市場の価格帯が落ち込んでいない。コロナ当初は、マンション価格が暴落するといった論調を多く散見したが、ふたを空ければむしろ最高価を更新している。

 

不動産情報サイトを運営するアットホームの調べでは、緊急事態解除後の7月の中古マンション価格が東京23区で2017年1月以降の過去最高を更新した。都区部の平均価格は2616万円だった。不動産調査会社の東京カンテイの調べでは、東京都心が過去最高値を更新した。都心6区(千代田・中央・港・文京・新宿・渋谷)の平均価格は8411万円となっている。東京カンテイによれば、特に築5年の物件は、新築マンションとほぼ変わらない価格帯になっている。新築供給が少ないために若干の割安感があり、スペック面でまったく見劣りしない中古に人気が集まっている様子が窺える。

 

暴落懸念とは裏腹、価格帯は高値水準

 

現状のマーケットを見ると、中古市場は売り物件が極端に少なくなっているのが特徴だ。複数の仲介会社によると、「物件がマーケットに出れば、すぐに買い手が付くような状態だ」としている。コロナの影響により、売り手側が物件の価格がこれから下がると見ていることで、「今は売り時ではない」と売りを控えているのが要因だと分析する。

 

売り手と買い手の目線が合っていないが、住宅需要は底堅く推移している。実需に限らず、不動産投資家の動きも顕著である。菅新政権になっても、アベノミクス路線を継承し、経済政策が大きく変化することがないと見られているためだ。日銀の量的・質的金融緩和により低く抑えられている金利が不動産市場を下支えする。

 

新築分譲マンション市場については、不動産経済研究所の予測として2020年に2万2000~2万3000戸になっているが、2021年以降に3万戸以上の回復を見込んでいる。新築価格は2019年に1㎡あたり約88万円、2020年が100万円以上になると予測。これまで新規供給が抑制気味だったが、徐々に供給戸数が戻り始めていると見ている。

 

「コロナ禍で都市部の密を避けるために郊外に住まいを求める人が増えている」。

 

菅政権が地方創生を肝煎り政策とすることから地方が一段と注目されるのは想像に難くない。しかし、そこには単にリモートワーク、テレワーク対応の住宅を開発すれば済む話ではなく、人工知能(AI)やビッグデータなどのデジタル技術を活用した都市づくり「スーパーシティ」を各自治体が創出できるかで明暗を分ける。買い物のキャッシュレス化、自動運転車両の導入、行政手続きのオンライン化といった新たな生活様式をデジタル化する取り組みが成功すれば住まいの需要も郊外に広がる可能性がある。

 

しかし、現状を見ると、東京都の人口は転出が転入を上回ったことで注目を浴びたものの、都市部の価格帯が落ち込んでいないことを踏まえれば、郊外化は話題ほどに行動に移されていないと推察できる。民間の調査を見ても、「郊外の人気が上がる」との見方が半数程度を占めるものの、郊外への実際の引っ越し意向については5%程度にとどまるケースも珍しくはない。「資産価値を保ちやすい都市部での需要はやはり健在で強い」との声が聞かれ、不動産専門紙を発行する週刊住宅タイムズの報道によれば、「郊外に居住地を移すデータは見当たらない。すごもりも地方より都市が便利であり、住宅需要の郊外化は進まない」という専門家の声を紹介している。

 

コロナ・ショックからの回復が鍵

 

足もとの懸念材料としては、不動産という値の張る商品だけに引き続き景況感に左右されることだ。資金繰りに悩む中小企業などを中心に新たな設備投資ができずにGDPは10~12月期までマイナスが続くとの銀行系シンクタンクの見方もある。

 

不動産市場の回復には、企業収益や個人所得が改善することが欠かせない。飲食店やサービス業を中心にコロナ倒産が続いている状況をいかに止めるかが焦点。報道によれば、そうした視点から金融庁は、2021年度の税制改正要望で金融機関が中小企業向けの融資を促す税制優遇措置を講じて貸し出し余力の引き上げにつなげる考えだ。

 

住宅需要の今後の展開として、所得水準の落ちていない資金力のある個人は、都心・都市部でメインの居住を確保しながら地方圏にセカンドハウスを買い求めていく傾向が強まり、一方で資金力がない、所得水準が下がっている消費者は、大都市部に住みたくても住めないことで割安な郊外に住まいを求める動きが加速する可能性がある

 

もっとも、諸外国の目を向ければ、一般的に富裕層・高所得者と低所得者層とは居住地が棲み分けられており、日本のようにお金持ちとそうでない人が一緒のエリアに住んでいるケースはほぼ見られない。日本はある意味、お金持ちとそうでない人が同じエリアに〝同居している〟珍しいケースでもある。しかし、所得格差が年々拡大している日本でも、これから諸外国のような棲み分けが気付かないうちに進むかもしれない。