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不動産レポート



コロナ禍、2020年上期のマンション市場分析

景況感の悪材料は絶えず、でも価格高水準

緩和マネーと家賃の粘着性、不動産冷静さ取り戻す

 

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。国内の感染者は1月16日に初めて確認され、累計感染者は8月3日にクルーズの乗船者を含めて4万人を超えた。感染増加のペースは急ピッチで上げている。この第2波の襲来は、日本経済の先行きについて視界不良の濃度を深めている。ただ現状は、世界的な財政出動に伴い市中にじゃぶじゃぶにお金が滞留しており、行き場を探すその緩和マネーが株式市場に流れ込んで株価は高い水準を維持している。日本ではマイナス金利が常態化し、コロナ禍でマイナス金利の解除や金利の引き上げは当面見込みづらい。不動産市場を見てもコロナ禍で物件価格が急落すると思いきや、意外にも高い水準でむしろ上昇している状況が直近の各種データなどで確認されている。この状況はなにを示しているのか。コロナ禍による不動産市場の崩落懸念は杞憂に終わるのか。日本の不動産市場は、このまま買い続けても良いというシグナルなのか。

 

内閣府は8月3日に2020年1~3月期の実質GDP(国内総生産)の再改定値を発表した。それによれば、前期比0.6%減(年率換算2.2%減)と2四半期連続のマイナスだった。だが、緊急事態宣言に伴う休業要請、外出自粛要請を受けて4~6月期は経済活動が停滞したことで、民間シンクタンクの予測値として年率27.0%減と戦後最悪の落ち込みが見込まれている。内閣府は、今月17日に4~6月期のGDP速報値を公表する予定だ。予測通りであれば、リーマン・ショック後の2009年1~3月期の年率17.8%減少を超える下落幅を記録することになる。飲食・サービス業が直撃を受けて個人消費の低迷が企業収益にも悪影響を及ぼしている。

 

訪日需要の蒸発は大きなダメージ。国内の個人消費の落ち込みとインバウンドの消失によりデパートの売り上げ急減という数字になって現れた。大手百貨店4社は8月3日に業績動向を発表した。それによると、7月の既存店売上高は、前年同月比10~20%以上の減少幅を示した。この売り上げの落ち込みが休業要請と外出自粛要請に起因するものであるならば、一定の時間軸で元に戻ることに期待が持てるが、今後、企業業績の低迷に伴い会社員の給与所得が目減りするとそうはいかない。

 

その兆しはある。大手企業の2020年春闘妥結結果の最終集計を経団連が公表したが、定期昇給とベースアップを合わせた月額賃金の上昇率は2.12%(前年は2.43%)と賃上げ率は7年連続で2%を超えたものの水準は最低となった。第1四半期決算で大幅な赤字を出した企業が多い中で、ボーナスの水準に今後影響も出そうだ。2021年の春闘はもっと厳しいことになることが予想される。

 

2月に売り急ぎ顕在化も現状は様子見

 

このように経済情勢は予断を許さない。しかし、住宅・不動産市場は冷静さを取り戻している。取引価格が下がっていない。不動産情報のアットホームが7月29日に発表した首都圏の中古マンション成約価格は、直近6月で平均2749万円(前月比4.8%上昇)となった。東京23区では4272万円(同5.7%上昇)となり、1年前との比較で15.6%上昇している。過去2番目に高い水準だ。

 

2016年に導入されたマイナス金利は、投資対象としての中古マンションの妙味を相対的に高めて中古マンションの流通戸数の増大を後押しした。東京カンテイの調査によれば、東京23区の流通戸数は、2020年1~3月期に3万8104戸となり、このうち新規流通戸数が7677戸と前期・前年同期の水準をともに上回っていたが、このことは、コロナで先行き不透明感が増し、世界同時株安が発生したことで所有物件の現金化を急ぐ姿勢が反映されたと言っていい。ただし、大部分の期間にわたって営業活動が停止に追い込まれた4~6月期の流通戸数は3万6529戸で、このうち新規流通戸数が5822戸と大幅に減少した。

 

そうした状況を踏まえながら、同社が2020年1~6月までの中古マンション市場を分析したところ、コロナ禍では2つの現象が浮き彫りとなった。一つは新型コロナウイルスの感染が注目を浴び始めた2月に『売り急ぎ』があったことと、そのあとに『様子見』の状態に突入したことだ。首都圏だけでなく、近畿圏や愛知県、福岡県を含めてすべての大都市部で見られた現象である。

 

首都圏を取り上げて見ると、2月には流通市場に3万3479戸の売り住戸が存在していた。そのうち8342戸が新たに発生した売り住戸(新規住戸)であったが、その新規住戸の発生率は24.9%と1月よりも3.6ポイント上昇し、ほぼ4分の1を占めた。それが4月には20.3%、5月に16.1%、6月に17.5%と低下している。

 

その一方で、消滅住戸の数が増えている。この「消滅住戸」とは、当該月に存在していた売り住戸の数が翌月に消えていることを指しているもので、首都圏では前述のように2月に3万3479戸が売りに出ていたが、このうち7673戸が3月の市場から消えている。消滅住戸の発生率を見ると、1月は19.9%、2月が22.9%、3月が23.1%、4月が15.8%、5月が16.1%と推移してきた。

 

つまり、消滅住戸数と新規住戸数が同時に増加している2月の段階では、それ相応に不動産の取引が成立(成約)に至っていたことが推察できる。コロナ危機の初動時は、「これから不動産価格が暴落する」との思惑からの売り急ぎによる若干の値下げと買い方目線がマッチングして消滅住戸の割合が増したと分析できる。事業法人が今後の不況に備えて、社員寮などのマンションを売却して現金確保に向けて動いたとの観測もでき、数少ない売買好機が2月に存在していた可能性が高い。その動きは続かずに5~6月の取引を見ると、休業要請や外出自粛要請などを映し出してフリーズ状態に陥っている。

 

 

築5年以内の中古は〝新築と同じ価値〟

 

このようにマンション価格は、感染拡大による悪影響が足もとでは表面化していない。新築価格を見ると、前述の東京カンテイの調査によれば、2020年第1半期(1~3月期)に1坪当たり平均340.9万円、4~6月期が342.5万円と上昇トレンドを描いている。中古も基本的に高値を維持して下落に転じていない。中古マンションで特筆すべきは築5年以内の上昇曲線である。新築とシンクロして推移している。新築の供給が大幅に減らす中で、割安感がありスペック面で見劣りしない築浅ニーズが集中し、取引価格を押し上げて築5年以内は新築と価格差がほぼない水準になっている。

 

もっとも、住宅分野は、景気悪化の耐性に優れているのが特徴だ。オフィスビルや商業施設、ホテルなどは景気に大きく左右される。物件価格や賃料・歩合賃料の増減率、つまりボラティリティは大きい。半面、住宅のボラティリティには安定感がある。

 

例えば、企業の業績が大きく落ち込んだり、赤字に陥ったからと言って給料が半分になったりすることはない。住宅でも分譲価格や家賃が半分になることはない。実需の住宅購入では、購入者のライフルイベントに左右される部分が大きく必要であれば不景気でも家を買う。賃貸住宅の入居者もライフスタイルや勤め先からの距離などと照らし合わせながら住まいを決める。住まいは生きていく上で必須であるため、家賃の粘着性が強い。

 

内閣府は7月30日、2012年12月から始まった景気拡大局面が2018年10月をピークに後退に転じたことを認定した。日本財団は1年延期された東京五輪・パラリンピックについて、17~19歳を対象に意識調査を行ったところ、5割超が延期か中止すべきだと考えていることもわかった。足もとでは、景気の良い話は聞かれずネガティブな調査結果や指標が相次いでいるものの、現状の不動産市場、とりわけマンションの資産性は高水準で推移している。引き続き市場ウオッチは欠かせない。