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不動産レポート



分譲マンション市場2019を振り返る

価格の高騰で購入しづらい環境

自然の猛威を想定した物件の選び方も重要に 

 

分譲マンション市場は、新築の供給戸数が少なく売れ行きも好不調の節目となる契約率70%を下回る。一方で、中古マンションの成約件数は好調に伸びて4年連続で中古成約数が新築発売数を上回りそうな勢いが続いている。価格は新築・中古ともに高騰感が募り、買いづらさは相変わらずである。今年は自然災害で大きな爪痕も残した。大型台風の直撃を受けて甚大な洪水被害をもたらし、首都圏の一部のタワーマンションでは、地下機械室が水没して電気が使えない状況に陥った。これら台風被害を受けて河川が近いなど水害を受けそうな場所での取引がキャンセルになった例も少なくない。2019年を振り返ると、マンション購入を検討者している人にとって分譲マンション選別の難しさを印象付けた1年となった。

 

東京都の販売価格は年収13倍に

 

新築マンションは、相変わらず供給抑制モードが続いており、首都圏での2019年の供給戸数は3万戸前後と3万戸を割り込む可能性も出ている。そうした中、2020年東京オリンピック・パラリンピックの選手村として使用した後に分譲マンションとなる「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」は今年の目玉販売物件となった。東京湾岸の晴海約13haの土地に分譲4145戸に加え、賃貸住宅1487戸と新たに1万2000人ほどが入居する大規模なコミュニティが誕生する。ハルミフラッグは都有地活用のプロジェクト。最寄り駅まで徒歩20分前後と利便性は今ひとつである。

 

しかし、第1期販売(7月26日~8月4日)では、「シービレッジ」「パークビレッジ」各街区の600戸に対して登録申し込み総数1543組、平均倍率は約2.57倍となり、パークビレッジ最上階の住宅で最高倍率71倍を付けた。三方を海に囲まれて東京湾を一望できる条件が人気を呼んだようだ。良い条件の住戸では競争率は高く、そうではない住戸の販売では苦戦するとの見方は消えていないが、輸送能力は未知数だが次世代バスシステムの東京BRTや都営バスのほか、コミュニティサイクルなどの交通手段の結節拠点となるマルチモビリティステーションを備えるなどで滑り出しは話題物件として恥ずかしくない反響だった。東京都心の新築相場と比較して割安であるため、交通便が悪いとはいえ都心までの距離との天びんから購入に動いた消費者も少なくないようだ。

 

その一方、他のマンションに目を向けると、特に東京では価格高騰で購入のしづらさが増しているのが実態だ。東京カンテイでは、販売価格が年収の何倍に相当するかを「年収倍率」として示して買いづらさを訴えている。直近12月4日に発表した年収倍率を見ると、首都圏新築マンションは2018年に11倍に達し、東京都では13.30倍となっている。平均年収の増加率が新築価格の上昇率を上回ったことで前年の11.01倍から横ばいとなったものの、一般的なサラリーマンでは手が届かない水準に違いはない。不動産各社は、夫婦共働き、パワーカップルといったダブルインカムを当て込んでのマンション開発・販売になっている。

 

中古マンションであっても、首都圏で7.56倍と新築よりも買いやすい倍率とはいえ手を出しづらい水準であることに違いはなく、2017年の7.42倍より倍率が若干拡大している。東京都では、その倍率は10.49倍と全国の自治体で唯一10倍に達している。新築価格の高騰に伴う連れ高と新築供給の調整による購入ニーズの受け皿を担っていることもあって中古価格は上がり続けてきた。同社の直近10月の価格動向では、東京23区で5609万円となり、都心部で8000万円台を付けている。

 

ちなみに沖縄県では、新築で10.36倍と初めて年収倍率が10倍を超え、中古でも9.32倍とほぼ変わらない倍率となっている。投資家向けの物件供給が倍率を高めており、沖縄には投資マネー流入によるバブル感が際立っている。

 

中古マンションの成約件数は堅調に推移している。新築に手が届かないとの理由だけでなく、中古住宅を購入することに抵抗感を持たない消費者も増えているためだ。新築よりも良い立地の中古を割安に購入して自分の好みの住空間にリノベーションやリフォームにより内装を変更する楽しみを追求する消費者が増えている。

 

不動産流通経営協会の「不動産流通業に関する消費者動向調査(2019年度版)」によると、中古住宅の購入者の約半数が中古住宅を中心に物件を探しているとし、「既存住宅のみ」が23.5%、「主に既存住宅」が25.3%という結果もある。不動産コンサルタントの長嶋修氏は、「中古住宅の価値が落ちないことによる資産効果によって消費が活性化し、住み替えの頻度も高まるといった市場経済に舵を切るべきだ」と訴えるとともに、住宅の価値が落ちないことでもたらす資産効果と経済効果で景気動向を見通す指標にもするべきだとする。

 

中古物件には、竣工から数年~十数年経過している安心感がある。なんらかの瑕疵が存在すれば竣工後10年も経てば顕在化する。顕在化していなければ物件の品質に問題がないということになる。新築物件は購入後に瑕疵が見つかるリスクがあるが、中古には経年劣化が表面化しやすくなる側面があるものの重大な瑕疵が出てくる可能性が低いとの見方である。

 

東京カンテイでは、「現在の新築物件では販売価格を抑えるために専有面積を縮小したりするが、中古物件は立地の良いマンションを選べて価格の割に専有部も新築よりも広い。新築供給に伴い住宅ストックが増えることで選択肢の多さが消費者を引きつけている」とも分析している。

 

 

自然災害を織り込んだ立地選びも重要に

 

そしてもう一つマンションを購入する際に意識せざるを得なくなったのが自然災害である。地球温暖化の影響は日本にも押し寄せている。床上・床下浸水はもとより、川の氾濫で家が流されてしまうなど住まいを奪われるケースが少なくない。ゲリラ豪雨など水害ニュースはめずらしくなくなり、今年の台風15号・19号だけでなく、昨年夏には西日本を中心に中部地方、北海道と全国場広い範囲が集中豪雨に見舞われた。

 

今年7月の全国知事会では、三重県の鈴木英敬知事が不動産取引のときに契約相手に浸水想定区域を記したハザードマップを提示することなどを提言した。宅地・建物の取引時の重要事項時に説明を義務付けるための宅建業法改正が視野にあるとして不動産業界で注目を集めた。国土交通省でも業界団体を通じて取引における水害リスクについて取引対象の宅地や建物がある市町村が作成・公表する(洪水・内水・高潮)ハザードマップを提供するよう求めている。

 

今年の台風被害では、大きな爪痕を各地に残したが、浸水被害を受けた地域は自治体が提供するハザードマップとほぼ重なっていた。「義務化したら資産価値が毀損する地域が出てしまい不動産取引に影響が出る」と懸念の声も上がるが、おおむねハザードマップを活用しての消費者への説明は理解が進んでいる。不動産取引の契約時に浸水や地すべり、地盤の陥没といった可能性について注意を払う必要が高まり、消費者は、地域のリスク情報の取り扱いが注目される時代となっている。

 

災害リスクの情報を提供する民間企業も増えている。ネット検索大手のヤフーは、スマートフォン向け防災通知アプリで災害発生時に適切な行動ができるよう避難場所の登録や防災用品の確認など防災関連の情報をまとめている。各自治体が作成した各災害の被害が及ぶ想定範囲、被害想定の程度、避難の道筋などを表したハザードマップも閲覧できる。

 

損害保険ジャパン日本興亜は、公的機関等が開示するハザードマップに同社の保険金支払実績データを加えたオリジナルのハザードマップの提供を今春から始めている。地震発生の確率や洪水のときに想定される浸水の深さや、土砂災害危険箇所などの自然災害リスクをGIS(地理情報システム)で集約して可視化し、住所の入力によりその場所のリスクをピンポイントで判定・表示できるようにしている。

 

新築供給の抑制、販売価格の高騰、地球温暖化に伴う自然災害‥‥‥。分譲マンション選びは、経済状況にとどまらない様々な観点が必要になっている。