イギリス連邦を構成するスコットランドは、独立を問う国民投票を実施した結果、英国の一員にとどまることを選択した。独立賛成と反対が拮抗し、結果が出るまで英国経済への懸念に注目が集まった。足元の経済は、順調に推移しており、2014年のGDPの伸び率は約3.5%の見通しと欧州で高い水準を保っていたからだ。スコットランドが独立を選択していれば、好調の経済に支障をきたすのは必至だった。もちろん、英国の不動産市場と投資マネーにも影響を及ぼしただろうが、その心配は杞憂に終わった。だが、国内不動産価格が高騰していることで、英国の不動産への投資妙味は薄れつつあり、投資家は海外投資を加速する。
ロンドンの住宅価格は、ハイドパークで1㎡当たり1200万円ほどに迫る水準に達している。同様に香港は900万円ほどで、シンガポールが約400万円となっており、東京では、昨年9月に三菱地所レジデンスがリーマン・ショック後の最高級・最高価格マンションとして満を持して発売した「パークハウス千鳥ヶ淵」が1㎡当たり約240万円と先に挙げた国々に比べて割安感が強いのがあらためて明らかとなった。香港と比較しても半分以下の水準にとどまる東京の住宅市場は魅力的だと海外投資家の目には映っている。最近110円台まで切り下がった円安も追い風だ。同様のクラスの住宅を自国で購入すると考えた場合、東京では25%もディスカウトになる。
こうしたなか、特に英国ではロシアマネーの流入によりロンドンを中心に不動産価格が急騰したことで投資家は政治・経済・治安のすべてにおいて安定性のある東京への投資姿勢を強めている。内戦やテロに見舞われ世界の火薬庫と言われる中東や、香港の大規模なデモ、ロシアのクリミア半島への侵攻を見て日本の安定感に改めて着目する投資家は少なくない。
その代表的な例が英国で300年も続いている不動産会社、グロブナー・リミテッドの攻勢だ。香港のPCCWタワーや、北京と上海のトップグレードのオフィスビルに続く重要な投資先として東京を位置付け住宅投資を加速する。このほどリノベーションマンション「ザ・ウエストミンスター六本木」を売り出した。リノベ物件と侮るなかれ、1戸9億円の超高級住戸で、坪単価は1000万円に達する。
同物件は2003年竣工の高級賃貸マンションをグロブナーが2011年10月に取得した。地下1階地上14階建て延べ2万1717㎡。間取りは1LDK~4LDK(90~270㎡)。賃借人が退室した部屋からリノベーションを施し、昨年12月から順次販売を始めている。99戸のうち半数を売却できた。購入者の4割が台湾や香港などのアジアを中心とした海外富裕層だ。これまでに成約した平均価格は2億6000万円、坪平均単価は640万円となる。
今回9億円の住戸は、同ブランドを象徴する住戸として発売した。間取りは、専有面積は264.51㎡の3LDKとなる。リノベーションに約1億円を投じ、総大理石のリビング・ダイニングにキッチンとバスルームは2つずつそろえ、7畳ほどの広さにあるウオークインクローゼット、ワインバーなどを備えた。残りの住戸も高級住宅として年内に完成させる以降で進めており、今後3年以内に全住戸の分譲を終える計画だ。
同社の駐日代表の廣井康士郎氏は、「2020年東京オリンピックの開催に向けてプレミアム住宅マーケットが拡大するポスト・ロンドンだ」といい、有栖川など都心部中心に今後300億円分の物件仕入れに動くという。
グロブナーが東京をポスト・ロンドンとして注目する背景はいくつかある。まずは経済規模だ。日本のGDP500兆円のうち、東京が155兆円ほどを占め、米ビジネス誌のフォーチュンが全米企業の売上高ランキング「フォーチュン・グローバル500」のうち46社が東京に本社を置いている。少子高齢化に伴い人口減少に突入した現状でも首都圏の人口が3700万人と世界最大であることに加え、2020年の東京五輪を控えて雇用の増加や国際化が進展することを挙げている。
実際、2013年は東京の商業不動産市場への資本流入は先進諸国のなかでも最大の35%増を記録した。地価や建築費、エネルギーといった開発にかかるコストが高騰するなかで、今後、新規分譲マンションの供給不足が続くと見通しも示す。既存高級マンションの需要は高まると強気だ。
世界のマネーフローを概観すると、基本的に米国が世界の借金国になっているので、米国におカネを貸している構図が浮かんでくる。その大きな流れは、イギリスとアジアのフローで金額の相当を占めており、その中にはオイルマネーもかなり流入している。
その規模を産油国が教えてくれるわけではないので、正確な数字はわからない。だが、国際収支統計を用いて経常収支の累積計上の黒字額が国としての貯蓄額だという計算の仕方をすると2兆~2.5兆ドルを超えるとの見方がある。こうした様々な資金は、日本の不動産市場についても流入する。これから地価や不動産価格がなお上昇していくという明確なインフレビジョンが描けるのであれば「安く買い」、「高く売る」、というビジョンのもとで流入してくる可能性は否定できない。