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不動産レポート



不動産市場 2016検証Ⅰ:分譲マンション新規供給が落ち込む「消費再増税延期と販売価格の高額が足かせに」

 2016年も残すところ2カ月を切った。今年は、2月に日銀がマイナス金利を導入したり、消費税の再増税が2019年10月へと2年半先送りされ、イギリスがEU(欧州連合)からの脱退を決めたりと国内外でさまざま出来事があった。日銀は物価2%目標の達成時期について「2018年度ごろ」に先送りし、金融政策だけではデフレから抜け出せない実態も浮き彫りとなった。円安を維持したい思惑で導入されたマイナス金利は全く効果を発揮せず、今年に入ってからの為替は、1ドル120円台だった昨年から急速に切り上がって100~105円で推移している。

一方で、金利政策を軸にした金融緩和が当面続くが、企業の資金需要が乏しい中で銀行など金融機関が不動産向けに大量にマネー供給したことで地価が上昇し、とりわけ都心部の不動産価格が高騰化した。分譲マンションは、一般サラリーマン世帯の手が届かない価格水準に達している。今月と来月にわたって今年の不動産マーケットを振り返る。

 

駆け込み消失で供給タイミング狂う 仕入れたマンション用地の動向に注目

 

新規供給に急ブレーキがかかった。これが2016年の新築分譲マンション市場の特徴だ。首都圏は1年間で3万戸を少し超える供給にとどまると見られている。「都心回帰が強まり2016年は前年比4.4%増の4.3万戸」と銘打った不動産経済研究所の当初見通しに遠く及ばない。2015年は首都圏で4万449戸(長谷工総合研究所)の供給があった。

直近の動向を見ると、不動産経済研究所がまとめた8月の首都圏マンション供給戸数は、1年前に比べて24.7%少ない1966戸と9カ月連続して前年同月を下回った。契約率は66.6%で好不調の目安とされる7割を3カ月連続して割り込んだ。9月の状況は、前年同月比40.9%上回る3424戸となって10カ月ぶりに1年前を上回り、契約率も72.0%と4カ月ぶりに7割

台を回復したものの、東京区部の契約率は70%に届かなかった。

「新規供給が進まない」「売れない」というこの2点は、消費再増税の延期と物件価格の高騰が大きな要因だったであろう。

新規供給減の背景には、おそらくデベロッパー各社が消費増税を見越して駆け込み需要が発生する想定のもとに新規供給計画を練っていたが増税時期が延期になったことで狂いが生じたのではないかと見られる。駆け込みは需要の先食いに過ぎないため、各社の業績に与える影響については、中長期的な観点からはないと言えるが、2016年の単年だけで見ると駆け込み需要はプラスに働くはずだった。しかし、駆け込みで爆発的な好影響を受けることがなくなったことで供給を先送りする意味がなくなった。

ただ、これから開発するマンション価格は高値にならざるを得ない。地価上昇に加え、2020年東京オリンピックが控えていることが相まって人件費と建設資材コストは依然として高止まっている。

一般的なサラリーマンの所得が改善していない状況では新規供給しても売れ残ると考えて足踏みしているのが現状だ。原油価格の落ち込みや中国経済の減速といった海外要因によって一般企業の業績が絶好調というわけでもない。

一般的にサラリーマンの購買力を考えると、1坪当たり240万円程度だと言われている中で、大都市部は300万円程度まで引き上がっているのが珍しくない。消費者の購入意欲が減退しているのは間違いない。

ただ、そうは言っても仕入れたマンション用地をいつまでも寝かせておくわけにもいかないジレンマもデベロッパー各社は抱えているはず。仮に地価の調整が本格化すると減損会計により評価損を出すことに陥る可能性もあるため、徐々に新規供給に向かうとの見方も少なくない。

 

中古マンション価格にもピーク感 住宅ストック流通を促す政策も成立

 

マンション価格の高騰は新築に限らず中古マンションも高い。東京カンテイによると、9月の首都圏の中古価格は3530万円で9カ月連続の上昇となり、東京23区は前月に比べて0.3%下落したものの5264万円となって1年前との比較では7.1%高くなっている。都心6区(千代団・中央・港・新宿・文京・渋谷)は7200万円前後で推移している。

同社は10月31日に中古マンションの相場価格について町名単位で発表した。公示地価や基準地価のような地点数的に調べたところ、2016年上期(1~6月)で最も相場価格が高いのは「港区元麻布」で1坪当たり704.8万円と断トツの高額帯となっている。2位は「港区麻布永坂町」(677万円)、3位が「千代田区三番町」(592.2万円)、4位が「港区虎ノ門」(585.6万円)、5位が「千代田区富士見」(574.7万円)だった。東京23区の上位50位のうち、港区が17、渋谷区13、千代田区11の地点数を数えて

いる。ブランディング性の高い立地の強みを印象付けている。

マンションや戸建住宅など新築住宅の価格が高騰化していることで、既存住宅、いわゆる中古物件を物色する消費者がここ2~3年増えている。不動産流通経営協会の調査では、「希望エリアの物件だったから」(64.3%)や「手頃な価格だったから」(54.7%)、「良質な物件だったから」(44.6%)といったことが中古住宅の購入理由のトップ3に挙がった。立地や価格の手ごろさに次いで住宅の質が購入の決め手となっている。

2016年は、こうしたトレンドを反映し、国も動いて建物状況調査(インスペクション)の活用を促す宅地建物取引業法の改正が5月に成立した。調査結果を重要事項として説明することを義務付けている。中古住宅の売買をスムーズに安心・安全に進めるための手法の一つと位置付けている。

宅建業者には、インスペクションを実施するかどうかを売り主と買い主に確認することを義務付けており、インスペクションを実施した際に宅建業者はその調査結果を重要事項説明に盛り込み、買い主に説明しなくてはならない。インスペクション関連は公布から2年以内の施行となっている。

 

世界の都市総合力ランク3位 東京「居住力」のアップがけん引

 

森記念財団都市戦略研究所の「世界の都市総合力ランキング2016」で調査開始以来、8年連続で4位だった東京が3位に浮上した。東洋大学教授・慶應義塾大学名誉教授で同財団の竹中平蔵所長は、「足元ではマクロ要因が強いが、外国人のビザ発行要件の緩和などは自律的な動きによる効果と言ってよい。円安も手伝ったがインバウンドを増やした」ことを評価。食事や買い物で高評価を受けて分野別の「観光客」では昨年の6位から5位にランクアップした。

調査で得た外国人の東京のイメージについては、混雑した「Crowded」を連想する一方で、整理されている「Organized」という効率的で秩序だった都市のイメージに加え、テクノロジーやモダンなどが連想されていることもわかった。

とりわけ今回の総合ランキング引き上げに居住性が大きく貢献したことも見逃せない。分野別ランキングで「居住」は前年の15位から6位と飛躍的に順位を上げた。これは、居住コストとしての賃料や物件の水準のスコアが大きく伸びたことや、人口当たりの殺人件数・災害に対する脆弱性といった安心・安全に加え、就業環境のスコアが改善したことを反映したものだ。

賃貸住宅の賃料水準は、月額1920ドルで前の年に比べて570ドル安くなって住まいを借りやすくなったことが評価されている。ただ、2015年の為替変動を主に使って算出していることで昨年の円安の効果によるところが大きく、円高に切り上がった現状の為替を採用すると同様の評価が得られるとは限らない。来年のランキングでの評価が今から気になるところである。