。昨年9月に2020年東京五輪開催が決まった。東京・晴海の選手村から半径8km圏内を中心とするコンパクトな大会だが、大都市再生の契機となることは間違いない。今回から4~5回にわたり、これから進展するであろう東京の交通網整備や快適な都市づくりに向けた様々な開発、公共支援サービスなどいくつかのシリーズに分けて五輪開催に向けた動向を探る。まずは五輪誘致を受けて開催までの不動産動向を展望する。
リーマン・ショックから不動産市況が回復に向かう中で決まった東京五輪開催だが、息の長い不動産好景気を演出しそうだ。特に東京湾岸への注目度は高く、今年3月に米機関投資家訪問を慣行した証券大手アナリストによると、東京湾岸エリアに今後1万5000戸超の新築分譲マンションの供給があることと、消費増税にもかかわらず、足元の販売が好調であることに関心が集中したという。米現地投資家は、東京のマンション価格は、マンハッタンや西海岸に比べて割安といい、個人的に購入したいとの声も上がったという。五輪開催までの向こう6年の間に東京は快適な都市空間に変貌するべく、様々なインフラ整備が進むと見られており、お台場のカジノ建設の話では、実現すれば経済回復の起爆剤になると期待する外国人投資家が多かったようだ。
新興国経済やロシアによるクリミア半島の併合といった海外の不安要素は払しょくできていないが、米国では景気の好循環に期待が集まっており、日本企業も2014年3月期決算が軒並み過去最高益をたたき出す勢いだ。大手企業が従業員のベースアップに応じるなど徐々に個人所得の水準が改善されれば、経済の好循環につながる。期待が高まる中で、東京五輪を新たな景気浮揚の起爆剤としての役割に期待する。
約4554億円を投じて競技場や選手村などを整備し、高速道路などインフラの更新が進むとされるが、整備が進展するにつれて投じる金額が膨らむとの観測が強い。
国家戦略特区も後押しそうだ。国家戦略特区はアベノミクスの目玉政策だ。雇用、金融、都市計画など現行規制を見直し、税制優遇措置を設けることで世界中から技術・人材・資金が集まる国際的なビジネス都市をつくるのが狙い。
政府は3月28日、国家戦略特区諮問会議で、特区初弾として「東京圏」「関西圏」に沖縄県、新潟市、兵庫県、福岡市の6エリアを指定した。大胆な規制緩和を進める。東京圏は、都内、神奈川県、千葉県成田市で構成しており、2020年の東京五輪を視野にグローバル企業を誘致する国際的なビジネス拠点を目指す。
大都市部では容積率を緩和して高層マンションやビルを建てやすくし、都心部を中心に職場と住宅、商業施設などを併設した複合開発が進みそうだ。東京の街並みが変貌を遂げる可能性が高まり、住宅・不動産業界でも東京を再びアジアにとどまらない世界の中心都市へ押し上げる契機になると歓迎している。
三井不動産や三菱所、森ビルといった日本を代表するデベロッパーも、それぞれが街づくりを主導してきた日本橋や丸の内、六本木といったエリアが大きく変わる可能性がある。昨年5月に成長戦略センタープロジェクトを発表した三菱地所は、「今後10年間でベンチャー企業や日本に進出する海外企業を支援するオフィスを1万坪供給する。五輪開催は国際化を促進する契機になる」と表明した。三井不動産は、日本橋の再整備を着々と進め、この3月に複合商業施設「コレド室町2・3」をオープンした。先行開業した「コレド室町」と合わせて年間来場者数を1700万人と見込んでいる。
五輪の経済効果でマクロ経済が改善すれば、テナントの賃料負担や個人の住宅購買力が増し不動産市場にも好影響が期待できる。商業施設やオフィスビルは潤沢なキャッシュを生む〝箱モノ〟に変わる。それに着眼した対日不動産投資が活発化する可能性もあり、穏やかながら右肩上がりで不動産市況が推移する見通しだ。
実際、対日投資については、低金利の日本の資金調達コストの低さと一定の収益が見込める投資環境の安定度を評価して外資系ファンドが投資を再開している。東日本大震災が発生した2011年以降から、米国のアンジェロ・ゴードンや、英国のグロブナーやアヴィヴァグループ、ドイツのエイエム・アルファ、キャピタルモールズ・アジアといった投資家が都心部のビルや賃貸高級マンション、商業施設を取得している。
五輪誘致は、これまで箱モノ行政の批判を受けハード面の議論がしにくい雰囲気をぬぐい「正面切って東京の都市機能を強化する公共施設の開発議論がしやすい環境を整えた」(ゼネコン・デベロッパー)。規制緩和で土地の高度利用化を進め、東京の拠点性を高めることができれば、不動産市場に大きなインパクトをもたらす。
インフラ整備の充実は、目指している快適な都市の実現に向けて欠かせない。有楽町線と半蔵門線の接続(地下鉄8号線・11号線整備)や、新空港線による京急蒲田とJR・東急の蒲田の接続、環状8号線道路の地下を通るエイトライナー、成田空港と羽田空港と東京駅を結ぶといった整備はスピード感が重要だ。
こうしたインフラ整備が進めば、東京湾岸エリアのオフィスビル市況も安定する。同エリアでビル人気が乏しい背景には、交通アクセスの不備と、東日本大震災によって埋立地という立地イメージが良くない—-といった点があるが、例えば、晴海エリアの場合、2016年4月に開通予定の「バス高速輸送システム(BRT)」が導入され、検討中の「次世代型路面電車(LRT)」が実現すれば交通アクセスは格段に良くなる。「選手村」の開発が進めば国際交流の場としての発展が見込め、ひいては立地のイメージが向上に向かう。
不動産価格の東西の格差も縮小しそうだ。現在、東京の不動産価格は西高東低だ。マンションの1㎡当たりの販売単価は、「2013年上半期時点を見ると、山手エリアが100万8000円、城東地域など下町エリアが67万円と33.5%の開きがある」(みずほ証券)が、2020年は25%の開きに縮まって山手エリア120万円、下町エリア90万円程度になると見ている。これもインフラ整備の充実がもたらす効果だ。
東京の拠点性や都市機能の強化に対する投資が許容されやすい土壌ができたことで、地価動向も需要が強い場所から上昇し、徐々にエリアが広がるシナリオだ。東京スカイツリー周辺の地価が上昇したように、東京五輪でお台場や晴海といった湾岸エリアの地価が上昇すると見込まれる。
首都高速道路や環状7号線など道路を連続立体交差につくり変え、新幹線を開通させる世界の大都市に例を見ない効率的な都市構造を広域にわたって実現し高度経済成長につなげた1964年の東京五輪とは違う発展に注目が集まっている。