過熱感の漂う東京を避け、地方都市に視線を移して投資機会をうかがう不動産投資家が増えている。米不動産サービスのJLLによると、東京のAクラスのオフィスビル賃料は1~3月期で16四半期連続の上昇となり、1坪当たりの月額賃料は3.5万円を超えた。価格は1年前に比べて15.1%上昇し利回り低下が進んでいる。
分譲マンションも東京圏は高止まりが続き、1戸当たりの平均価格は、昨年11月に1991年6月以来24年ぶりに6000万円台を突破。長谷工総合研究所のデータでは、2015年の新築分譲マンションの年間の平均価格は東京23区で6732万円、山の手エリアに至っては7878万円に達する。そうしたなか東京に比べて割安感のある日本第2の大都市としての大阪と京都など世界的な観光地を抱える近畿圏の分譲マンション市場に着眼してみた。
■ 大阪市中心の注目度が急速アップ 新築・中古とも価格上昇トレンド
投資ニーズに衰えは見えない。投資市場の動向を強く反映する三大都市圏(東京・大阪・名古屋)は、投資需要が引き続き旺盛で地価上昇が継続する見通しである。日本不動産研究所の不動産投資家調査(5月24日発表)によると、向こう1年間で「新規投資を積極的に行う」意欲を持つ人が88%に達し、「当面、新規投資を控える」は1割にとどまっている。同研究所の「市街地価格指数」は、今年9月末までの地価の変動率について東京圏0.3ポイント、大阪圏0.2ポイントとそれぞれプラスの見通しとなっている。
東京同様に大阪市でもインバウンド需要によりホテルや商業店舗が地価の押し上げをけん引する。同研究所では「大阪ではホテル用地の取引が活発。ホテル沿いの土地も人気で心斎橋などの価格上昇が進んでいる」と指摘している。国土交通省の今年1月時点の「地価LOOKレポート」は、大阪圏で12期連続の地価下落地区ゼロとなって「JR芦屋駅周辺」が21期、「阿倍野」が18期、「福島」と「天王寺」が16期とそれぞれ連続で地価が上昇。同省が6月3日に発表した4月1日時点(第1四半期)の地価LOOKレポートは、大阪・難波が6%以上の大幅な上昇率を示した。6%以上の上昇は名古屋市太閤口を含めた2地点だけだった。
近畿エリア全体を俯瞰した場合、大阪市内の新築マンション供給は、昨年1年間に7137戸(長谷工総研)で前年比15%ほど伸び、価格も同様に5.3%上昇して3467万円だった。
首都圏と比べてマンション価格の維持力は小さいと言わざるを得ないが、足元の大阪市中心部の中古マンション市場も堅調に推移しており、新築・中古ともに本格的な価格上昇トレンドの気配を見せている。
マンション調査の東京カンテイによると、大阪市の70㎡当たりの中古マンション価格(平均2799万円)は4月時点で1年前に比べ23.1%上昇した。梅田北ヤードの再開発事業などの高額マンションは、関西圏の需要にとどまらず東京からの引き合いが多い。梅田に限らず難波や阿倍野といった再開発エリアが地価上昇を誘発し、マンション価格を引き上げている。
大阪天満宮や四天王寺前夕陽ケ丘、四ツ橋、天満橋といった大阪市の中心エリアの注目が急速に高まっている。
■ プレミアムマンション急増 京都は希少性で中古価値アップ
東京カンテイは、もう一つの特徴として近畿圏のプレミアムマンションが急速に増えていることを挙げる。2015年まで3年間の中古マンション流通坪単価が150万円以上を主な条件に調べたところ、2009年の前回調査の47物件から87物件増と2.85倍に急増していることがわかった。
立地条件の良しあしがプレミアムな価格として反映されるのは言うまでもない。行政区別にプレミアムマンションを見ると、近畿の全134物件のうち神戸市東灘区が他エリアを引き離し29物件(シェア21.6%)と最も数が多い。ほかに灘区(9物件)や大阪市中央区(8物件)で一定のシェアがあり、同社は、「プレミアムマンションの分布で劇的に変わったのは大阪の中心区だ」と指摘する。マンション供給が市内の中心や商業性の高いエリアにシフトしているのが大きいといい、特に2000年以降にタワーマンション開発が進んだ。
最も坪単価が高かったのが「サンクタス鴨川別邸」の325.5万円だった。2位に「ライオンズマンション祇園小松町」(324.6万円)は前回調査時の188万円から急上昇している。3位は「イトーピア東山紫源苑」で316.7万円だった。
この3つはいずれも京都市内のマンションだ。先月のレポートで京都について、「街自体が歴史を重視する方向に傾いているため、終の棲家としての居住環境という点から住みやすい街として評価できないとの声も少なくない」との見方を紹介したが、こうした中古マンションのプレミア化が進んでいることを見ると、一方で京都物件に対するニーズの高まりを実感することができる。
逆に言えば、京都は制約・制限といった地域とのシラガミが多いだけにマンションを相次ぎ新規供給ができずに中古マンションの相対価値を高めていると考えられる。実際、長谷工総研のデータから、京都市の昨年の新築分譲マンションの供給は1574戸(前年比19.6%減)で2割程度少なく、その一方で平均価格は5124万円(19.5%増)と約2割高い。
こうしたプレミアムマンションは、景気後退期に伴う地価下落時にこそ資産価値としての存在感を増す。