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不動産レポート



新築分譲マンションの耐震事情

地震エネルギー吸収で建物被害を防ぐ

 地震国日本……。1995年1月の阪神・淡路大震災や2011年3月11日に発生した東日本大震災の記憶は人々の脳裏に刻まれている。東日本大震災は、地震の規模をあらわすマグニチュードが9.0と日本周辺における観測史上最大の地震で、岩手県沖から茨城県沖までの広い範囲が震源域という巨大地震。最大震度は宮城県栗原市の震度7、東京でも震度5強だった。地震が多発する国にあって建築物の耐震技術は日々進化している。阪神・淡路大震災では建物倒壊が印象的だったが、東日本大震災では、津波被害が甚大だったものの、建物の崩壊はほぼ皆無だった。新築分譲マンションの耐震事情を追った。

 東日本大震災からほぼ1年後の2012年2月に、不動産大手7社で運営する新築マンションのポータルサイト「メジャー7」が全国50万人を対象に新築分譲マンションの購入意向アンケートを実施したところ、「耐震性の高いマンションに住みたい」と回答した人が震災前の前回調査(2012年2月)の17位から8位へと急浮上した。

 耐震性が強いことに加えて、「災害に強いこと」(17位→11位)や「災害時の対策・防災設備の配備がされていること」など軒並み災害対策関連の項目が上昇した。お金をかけるポイントでも「もっと交通の便の良いところに住みたいから」が5位から3位に上昇し、職住近接が注目を浴びるなど地震時を想定して物件を購入する意識が消費者の間で一気に高まった。

 

■東京湾岸の超高層で免震採用

 メジャー7の1社である三菱地所レジデンスは、東京湾岸エリアで鹿島建設とのJVによって地上49階建ての超高層マンション「ザ・パークハウス 晴海タワーズ クロノレジデンス」(総戸数883戸)を開発中だ。今月下旬にも竣工する。晴海2丁目土地区画整理事業地内の約3.0haにクロノレジデンスに加えて「ティアロレジデンス」(49階建て・同861戸)で構成するツインタワーマンション。計1800戸ほどの大規模コミュニティが誕生するプロジェクトだ。

 ティアロレジデンスは2016年4月上旬に竣工予定で、クロノレジデンスは今月下旬に竣工し2014年3月下旬から入居が始まる。足踏み状態だった販売進捗も、2020年東京オリンピック開催決定後の段階でクロノレジデンスは4分の3まで完了した。東京五輪開催の決定を受け晴海タワーズのモデルルーム来場者数は3倍に増えたが、計画当初は耐震・震災対策に万全を期した高層マンションとしても話題をさらった。都内で初めて免震構造で長期優良認定を取得した。

 免震は基礎と1階部分の床下の間に免震層を設けた「コアウォール」と呼ばれるシステムを採用。建物に地震エネルギーが直接伝わりにくいのが特徴だ。地震が発生した際には、建物の重荷を支えながら水平方向に大きく変形できる積層ゴムと、振動エネルギーを吸収し、建物の揺れを抑える役目を担うダンパーで構成している。

 震災対応として、地上3~48階までの各住戸階に防災備蓄倉庫も完備し、2階部分には地域向けの防災倉庫も備えている。大震災後に性能を見直して1日以上稼働可能な非常用発電機を地下と屋上に設置している。外構部は災害時に使う仮設トイレ用のマンホールを4カ所確保。

 

■マンションデベの液状化対策

 大京も東日本大震災直後に分譲マンション開発で液状化対策を強化した。マンション用地の砂質と杭を打ち込む深さを整理して液状化の恐れがある層を3段階に分類して設定している。実際に液状化が発生したエリアの現地調査を踏まえ、設計・対策基準で独自のマニュアルを策定。用地仕入れ段階からマニュアルに沿ってチェックし、液状化の恐れのある地層の深さを考慮しながら建物の部位ごとに実施設計に取りかかる。

 マニュアルの流れは、まずマンション用地の仕入れ担当者が開発予定地域の液状化危険予測マップを国や都道府県といった行政機関から入手し、土地の液状化の危険度を把握する。それを受けて商品企画部が地盤の状態を判定する。地盤に液状化の恐れがあるか否かは、①液状化層が表面から地下20m以内にあるか②液状化層が地下水位よりも深い位置にあって水で飽和しているか③地盤の軟弱度を示すN値が平均15以下であるか─の3条件で判断する。液状化の抵抗率の評価も行い対策が必要かどうかを決める。マンション開発地の外周部を囲って水抜きもする。

 

■中規模の耐震性25%高める技術

 一方、ゼネコン業界では、分譲マンション向けの耐震技術を開発してデベロッパー各社に導入を促す。三井住友建設では、「SuKKiT Noah(スキットノア)」と呼ぶ技術を東日本大震災から4カ月後に発表した。震度5強を想定。地上15階程度までの一般的なファミリー向け分譲マンションを主なターゲットとする。

 東日本大震災では、杭基礎を使用していない小規模の住宅系建物の傾きや液状化による浮き、内外装仕上げ材の損傷、設備機器の不具合やピット式機械駐車場が使えなくなるといった住民生活に支障をきたす状況が多く発生した。しかし、耐震設計された一定規模以上の中高層マンションの構造躯体に損傷がほとんどなかったことに着目し、建築の仕上げや設備の地震に対するレベルを構造躯体と同程度まで引き上げた。これにより地震後のライフライン復旧を待つ間(約1週間)住み続けられるほか、大規模補修も必要としないという。

 主な特徴は、マンション1階部分を駐車場として使用し、2階以上に住宅部分を設定したことだ。杭に支えられた住棟地下ピット方式の躯体は、震度5強の地震後でも沈下や変形の恐れがない。震災で電力インフラがダウンしたり、一時的な停電が発生しても、1階駐車場の消火設備用に設置した発電機を使い乗用エレベーター1基を約1週間運転できる。夜間の共用照明(通常時の約20%想定)や管理室などの防災拠点への電源供給も同時に行える。

 2階以上の住戸階は、廊下側に「パワーアシストウォール」と呼ぶ技術を導入して強化する。これは、柱梁の躯体接合部に腰壁状に設置する新しい構造躯体。建物の耐震性能を約25%高め、国土交通省が定める品確法の住宅性能表示で耐震等級2に値する。地震発生後も支障なく生活できるマンションを目指す。

 一般的に管理室や設備室、電気室といった軽微な付属施設は、地震によってマンション本体との接続部分でひび割れが生じる被害も多いが、スキットノアでは、マンション本体と一体化することで、ひび割れや傾きを防止する。液状化で敷地内の地盤が沈下してもメインのエントランスやその他の出入り口に段差が発生しない方法も導入する。

  マンション基準階の外周は、すべてをバルコニーや廊下とする「全周バルコニー」形式を基本とし、地震の際にガラスや仕上げ材の脱落・地面への落下事故の防止にも配慮した。内装仕上げは、床・壁・天井ともに構造躯体と縁を切り、地震時の建物の層間変位に対応する。共用部の吹付け材には躯体の動きに連動できるよう工夫してひび割れしにくい仕上げを施す。

 下水道が損壊して生活排水を外部に排出できなくなった場合は、緊急用としてあらかじめ設置したバイパス配管を開放することで、地下ピット湧水槽を緊急用汚水槽として利用。各住戸のトイレの使用可能となり、汚水槽には約14日間分の節水利用時の生活排水が貯留可能という。

 今後、南海トラフや首都直下型の大地震が想定される中で、分譲マンションは、ますます耐震性能の良しあしが消費者から選択される重要なファクターとなっている。