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不動産レポート



民泊法の期待と不安、地域住民の拒否反応強く、自治体独自の規制強化:賃貸住宅業界&周辺事業者は新サービス相次ぎ投入

2018年は民泊元年として注目されている。マンションやアパートなど住宅の空き室を宿泊施設として有料で貸し出す「住宅民泊事業法(民泊法)」が6月15日に施行する。これまで特区として東京都大田区や大阪府大阪市など一部で認められていたものが全国解禁となる。住宅・不動産業界では、民泊元年が空き家・空き室の解消につながり、新たな収益機会の到来と期待する。ただ、民泊ビジネスは、地域住民から人気がなく、一種の嫌悪施設として見られていることで、民泊包囲網が強まっているのが実情だ。民泊法では、営業日数が年間最大180日の規制がかけられているが、地域住民などからの反発が強いことを踏まえて、各自治体で独自規制を課している。民泊ビジネスを取り巻く状況を追ってみた。

 

●訪日客の急増をビジネス機会創出につなげる 

「民泊×マンスリー」「民泊×リノベーション」

 

2017年の訪日外国人観光客数は2900万人に迫り過去最高となった。2016年に比べて20%増えた。この過去最高の更新は5年連続。民泊ビジネスは、こうした訪日客を当て込んでいる。フロンティアホーム(埼玉県所沢市)では、営業日数180日のハンディキャップをマンスリーとの組み合わせで補完し、収益事業として運営に乗せる方針だ。


東京・上野に「Brooklyn Higashi Ueno」(ブルックリン東上野)として6月15日から本格稼働する予定だ。もともと時間貸し駐車場だった15坪の土地に地上5階建てを開発した。東京メトロ銀座線の稲荷町駅から1分、JR上野駅から7分の立地だ。1階に飲食店、2~3階に一般賃貸(4戸)、4~5階を民泊対応のメゾネットタイプを運用する。室内はシャワーだけの部屋と浴槽付きの部屋を用意したり、キッチンや電子レンジ、冷蔵庫も備えて自炊体制も整えている。


収益アパート開発のシノケングループ(東京都港区)は、都心部など主要ターミナル駅周辺の築古物件を対象に空室物件をリノベーションして民泊運用するビジネスモデルを本格化し、2020年東京オリンピック開催の年には、「リノベ×民泊」は2000億円市場に成長すると期待は大きい。

 

不動産情報サイトを運営するLIFULLでは、中国は経済発展に伴い富裕層が急増するといい、「2016年までの10年間で富裕層は18万人から158万人まで増えている。そのうち投資に振り向けられる資産が17億円以上ある超富裕層は過去10年間で11倍、2016年時点で12万人を超えた」として中国人富裕層の対日投資が今後増えていくと見ている。


楽天LIFULL STAYは、民泊・簡易宿所向けの運用代行サービスの受け付けを法人部門で開始しており、個人向けでもスタートする予定だ。同社では、ハイアス・アンド・カンパニー(東京都品川区)との業務提携によって戸建ての宿泊施設も供給する。


東京都心の不動産価格が高値圏にあるといっても、中国本土を拠点とする不動産会社からは、「上海のマンションは億ションが当たり前になっており、1坪当たりの単価も900万円に達している。上海の投資家にとって、東京のマンションは現状も割安圏の水準になっている」との声が聞かれる。

 

民泊法の期待と不安

 

●分譲マンション管理組合の8割以上が民泊禁止 

  大阪市で民泊舞台の殺人事件、治安面再び焦点か?

 

ただ、民泊を新たな商機と捉える企業にとって危機感はじわり高まっている。特区民泊で先行していた東京都大田区でさえ、6月の民泊全国解禁を前に住居専用地域や工業地域などでの営業を全面禁止とする規制に踏み切った。


歌舞伎町など繁華街を抱える新宿区では、住民の苦情に対応するために月曜正午から金曜正午まで住宅地での営業を認めない。京都市も年間の営業日数を上限60日ほどに制限する。京都市では、民泊施設から800m圏内に管理者の常駐を求めたり、民泊を届け出る場合には直近3カ月で無許可営業をしていない誓約書を提出しなければならない。


半面、大阪市は、近隣住民への説明を民泊事業者に義務付けるものの、民泊新法が定める年間180日を上限とする営業日数に準じての運用を予定しており、他の自治体のように新たな規制を盛り込んでいない。規制が強いと地下に潜る闇民泊が増えることに危惧を持っているようだ。

 

だが、2月に兵庫県で女性会社員が行方不明後に大阪市西成区の民泊施設で遺体として見つかった事件が起きた。逮捕された米国籍の容疑者は、民泊施設を転々としていたなどと報じられている。もともと警察は、民泊法制化に向けて議論が進められていたときにフランスなど欧州で相次ぐテロを受けて民泊は犯罪の温床になるとして強硬に反対していた。そうした治安上の不安から大阪市でも民泊規制の声が地域から吹き上がってもおかしくない。

 

自治体に限らず、分譲マンションの管理組合も民泊追放の動きを加速している。東京湾岸エリアのタワーマンションの管理組合は、ウェブサービスのオスカー(東京都渋谷区)が提供する「民泊ポリス」を導入し、マンションで禁止している民泊を運営していないかをインターネット上を巡回して調査している。

 

東京在住で大阪にも分譲マンションを所有するオーナーは「私の手元には、管理組合から民泊禁止条項を追加した管理規約の改定版が届いた」と話す。

 

マンション住民の民泊包囲網は想定以上に厳しい。一般社団法人マンション管理業協会(東京都港区)は2月27日、「民泊への対応状況調査」の結果をまとめた。協会会員社数は365社で9万5073組合の業務を受託しており、このうち80.5%が民泊を禁止した結果が明らかとなった。容認派は0.3%にとどまっている。同協会の会員社が戸数ベースで全国分譲マンションの92%以上(2016年末現在)の管理を引き受けているといい、ほぼ全国の分譲マンションが民泊NOを突き付けたことがはっきりした。

 

■厚労省が規制緩和、旅館・ホテル1室営業可能 

  宿泊事業希望者は民泊から旅館業へ流れる?

 

また、民泊法を事実上、骨抜きにする規制緩和も実施された。厚生労働省が旅館業規制の見直しでホテルや旅館の客室数の規制を今年1月末に撤廃し、1室からでもホテル・旅館としての営業が可能となった。客室の最低床面積も洋室9㎡以上、和室7㎡以上との基準を1月末に政令等を改正して緩めた。


緊急時やクレームなどに対応できる体制として、10分程度で職員等が駆け付けられれば玄関帳場を1カ所に集約して共有できる。例えば、1事業者が一つの玄関帳場を持ち、そこを拠点に複数の客室を運営できたり、複数の事業者が玄関帳場を共有して、各事業者が客室を運営できる。

 

さらに都道府県知事等にホテル営業と旅館の無許可営業者の報告を義務付け、無許可営業の罰金の上限額を3万円から100万円に、そのほか旅館業法に違反した場合は2万円から50万円へと引き上げた。


ホテル・旅館業界の監督官庁は厚生労働省、「住宅宿泊事業法」(民泊法)の監督官庁は国土交通省である。厚労省の規制緩和によって、宿泊事業に興味のある土地・建物のオーナーなどは、民泊ではなく旅館業を選択するかもしれない。旅館業の免許を取得すれば営業日数の制限を受ける民泊とは違い年間通じての営業が可能になるからだ。


民泊ビジネスは、全国解禁を前に事業者の期待と地域住民の不安が交錯しており、事業性の観点から評価がしづらい状況に陥っている。地域性に配慮しながら展開することと、民泊施行後のランニング状況を見るとともに、どれだけトラックレコードが積み上げられるかが成否を左右しそうだ。