実績豊富!東京5区エリアの不動産売買 信義房屋不動産(しんぎふさやふどうさん)

不動産レポート



2021年公示地価から見える市況:地価下落でもマンション価格下がらず

高い購入意欲で慢性的な品不足感に 

 

新型コロナウイルス感染拡大から1年が経過しているが、政府が感染収束を抑え込む決定打を欠き、収束に向けた気配が一向に見えない。そうした中、昨年春に発令された緊急事態宣言の衝撃が大きかったことを国土交通省が3月23日に発表した公示地価で浮き彫りとした。その緊急事態は今年1月早々に2度目が発令され、1都3県では3月21日まで続いた。休業要請・営業時間の短縮、訪日外国人の消滅で大都市や観光地を抱える地域を中心に地価は全国的な下落に見舞われた。全国全用途平均は6年ぶりの下落となり、用途別では住宅地が5年ぶり、商業地が7年ぶりに下落となった。この変化は、住宅地よりも商業地の下落幅が大きく、大都市圏が地方よりも下落率が大きい。しかし、今回の地価下落は、東日本大震災やリーマン・ショックとは違い不動産の取引を委縮させていないのが大きな特徴で、取引価格も高い水準で保たれている。今回は地価下落でも取引好調な背景を探った。

 

国内取引の3割強が外資勢占める

 

今回の公示地価で東京23区を見ると、商業地は全ての区で下落に転じた。特に下落幅が大きいところは、台東区や中央区、新宿区、渋谷区などだ。浅草寺や銀座、歌舞伎町など繁華街や歓楽街、観光地を抱えている。これらの飲食・サービスの収益性が悪化したことを映し出している。とりわけ訪日客ゼロの直撃を受けたのが大阪だ。全国で地価が最も落ち込んだのが、昨年店じまいした創業100年の老舗フグ料理店の「づぼらや」(大阪市中央区道頓堀1丁目)跡地 で28.0%下落し、これを含めて20%超の下落率5地点すべてがミナミに集中。大阪圏の最高地価は、前年1位の「住友商事心斎橋ビル」(大阪市中央区宗右衛門7丁目)に取って変わって4年ぶりにビジネス街の梅田地区が奪還した。大阪圏の最高価格は「グランフロント大阪南館」(2,290万円)となった。

 

だが、そうした半面、外資系の不動産ファンドは、日本の不動産に積極的に資金を投下する動きが活発だ。米不動産サービス大手のジョーンズ・ラング・ラサール( JLL)によると、2020年の対日不動産投資額は1兆5,548億円(前年比55%増)となり、国内の不動産投資に占める割合は34%となっている。同社が統計を取り始めた2007年以降で最高水準だ。足もとで円安が進んでいることで外資がさらに流入してくる可能性が高まっている。上場不動産投資信託(Jリート)のインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人が米投資ファンドからTOB(株式公開買い付け)を仕掛けたられたと報じられている。

 

坪単価500万円の高額物件が好調

 

住宅・不動産各社は、コロナ禍で雇用不安など先行き不安がぬぐえない中で不動産市場をどう見ているのか。住宅メーカ―大手によると、「雇用環境が好転するとの見通しあるわけではない。業種・業態によっては住宅ローン審査で慎重にならざるをえないケースもあるが、低い金利水準と政府支援策もあって営業現場では住宅の売れ行きに対してネガティブになっている様子は見られない」といい、向こう1年間は好調が継続すると見ている。

 

特に東京圏の一等地は土地の希少価値が高いことから競争入札で用地を仕入れても失敗せずに大半が成功裏に販売が終わっていると自信をのぞかせて、土地の見立てさえ間違わなければ売れると強調する。中長期的に見ると、人口減少で新規供給も減少していくため需要に見合った供給であれば契約率は現状のまま推移すると見立てている。

 

高額帯の分譲マンションの成約が好調だ。大和ハウス工業が東京・高輪で開発中のマンションは1坪当たりの平均単価が500万円だが、コロナ禍でも販売が好調だという。完成予定は2023年3月だが、「おそらく向こう1年で完売すると思う」と見通す。同様に東京・東銀座でも坪平均500万円を超えるマンションに対する引き合いも伸びている。「当初はコロナ禍で動きが鈍かったが、株高の上昇に伴い高額所得者や共働きのパワーカップル層が購入している」と説明する。マンションについては、投資家マネーの行き所にもなっており、賃貸マンションの取引が活発で品薄の時期もあったという。

 

住宅ローン対象の床面積が50㎡から40㎡に緩和されたことでコンパクトマンションの新規供給も増えそうだ。間取りを工夫してコンパクトであってもテレワークをしやすい空間をテーマにした商品開発がこれから登場する見込みだ。

 

感染拡大で密を避けるため大都市から郊外に移り住む話題に注目が集まっているのも特徴だが、実際に売れているのか、その状況を探ると、千葉・船橋の新築マンションの場合は、昨年1~3月の契約数は1カ月当たり平均20戸だったが、コロナ禍では平均30戸、調子のいいときは40~50戸の契約と販売ペースが早まっている。コロナ前に比べて1.5~2倍近い契約数の物件があり、テレワークの認知度が上がったことは、顧客の住まい選定の価値観に変化が少なからず影響を与えていると実感する販売現場は少なくない。

 

また、軽井沢(長野県)や熱海(静岡県)といった別荘需要も強まっており、資料請求が飛びぬけて高い。戸建て住宅などが中心だが、新たな土地がない状態だとの声も聞かれる。

 

 

富裕層が支える不動産マーケット

 

では、地価下落の中であってマンション・戸建て住宅の販売価格が上がり続けているのか。

 

コロナ禍で人々の心理として景況感は良くない。総務省の発表では、2020年平均の完全失業率は2.8%(前年比0・4ポイント上昇)とリーマン・ショックがあった2009年以来11年ぶり。本来ならば住宅は売れずに在庫が積み上がるはずだ。

 

しかし、新築・中古ともに成約価格が高止まっている。東京カンテイの調査によれば、東京都千代田区の中古マンション価格は2月に1憶2,000万円を突破している。都心部の平均価格は8,856万円と9,000万円台を目前とする。

 

どの業界・業種でも売り値は需給バランスで決まるものだが、端的に言えば、分譲マンションも現在購入したいという人が多いことを映し出している。新築の場合は、これまでデベロッパーが供給を抑制してきたことで、新規戸数を買い意欲が大幅に上回っていると想定できる。そして、新築が買えないので優良な中古マンションを購入する。中古市場は優良物件がマーケットに出ると蒸発的に売れてしまう。東日本不動産流通機構のデータでは、在庫件数が積み上がるどころか減り続けて品不足感が際立っている。

 

つまり、コロナ禍で確かに失業や雇止め、給料減額など所得環境が悪化している人が少なくないが、半面、所得が落ち込んでいない人も少なくないということだ。実際、日本の富裕層世帯はアベノミクスと2020年東京五輪・パラリンピックの開催が決まってから増え続けている。野村総合研究所の調査では、日本の富裕層は2019年に133万世帯になり、2017年の126.7万世帯から増加している。純金融資産が1億円以上5億円未満は124万世帯、5億円以上の世帯は8.7万世帯だとしている。

 

大規模金融緩和により行き場を探す国内外の緩和マネーが日本の不動産に流入する。日銀が4月2日に発表した2020年度の資金供給量(マネタリーベース)は643億6,096億円(前年度末比26.2%増)となり、9年連続で過去最高を更新している。市中には現金が出回っている。その規模は2013年4月の異次元緩和から8年間で4.4倍。日銀にとどまらず、世界各国の中央銀行が市中に資金を送り出していることで不動産相場は高値圏が続きそうである。